闇vs紅蓮の聖騎士団

少年の声が響き渡ったと同時に、黒い影が一斉に騎士団に襲い掛かった。

闇の者達は皆、少年と同じようにフードをかぶり顔を隠している。

だが、そのフードから時折覗かせる表情はどこか虚ろだった。

ある者はその眼を憎しみに染め、ある者はその顔に狂った笑みを浮かべ、そしてある者は――


――涙を流しながら。



ただひたすらに、剣を振り上げ、魔法をぶつける。


騎士一人に三人の闇の者達が攻撃を仕掛けていた。

だがそれに対抗するほどの力を持ち合わすほどの騎士は多くはない。


それも闇の一人一人が強いのだ。


その強さは、騎士と同等のそれである。


「クソッ……何でこんな強いんだよっ……」


「殺っても殺ってもきりがねぇっ……!!」


そう口にしながら斬りかかってくる闇に騎士たちは対抗する。


だが……



「……嘘、だろ……」


一人の騎士が、自らが殺した闇の者を見つめそう言った。

胸から血を流し倒れるその者は、まだ年端もいかない子供だった――。


フードが脱げ、見えたその顔に騎士は驚きを隠せないでいる。


ふと周りを見渡し倒れる闇の者達の顔を覗き見れば、そこに老若男女は関係なかった。


固まる騎士に近づく一つの黒い影。

その影は不気味に笑みを浮かべ騎士に語りかけた。


「……キミの思ってる通りだよ」


「…………」


「──ボクの仲間は皆、ただの市民。ある忘れ去れた街の、ただの市民達だ。そこに男や女、大人や子供……そんなのは関係ない」


「……なんで──」


「“なんで”? そんなの決まってるでしょ。キミ達が守りきれなかっただけ。皆、憎しみに駆られている。──大切な者の失った悲しみと一緒に、ね」



市民達を守るはずの騎士が、その手でその命を奪っている。


その事実に気づいた騎士団の者たちは、皆少なからず動揺し動きが鈍くなった。


その瞬間、闇の者達はそこを逃すことなく殺しにかかる。


火王もそれを庇うため闇の者を斬り伏せていくが、さすがの彼女も全員を助けることはできない。


次々に騎士たちは殺されていき、騎士団は圧倒的不利な立場にたっていた。



「──少年」


その光景を空中から見下ろす少年に、火王は話しかける。


少年は火王に目を向けることなく、血に染まりゆく街を楽しそうに眺め続けていた。


「なぜ罪のない市民を巻き込む。……お前は、市民達に何をした」




「──“罪のない”……?」




瞬間、少年の口元に浮かんでいた笑みが消えた。

代わりに発せられた声はあまりにも低く、少年のものとは思えない。


「よく言うね。ボクの幸せはコイツらに奪われたんだ。それは罪ではないと言うのかい……?」


その言葉に火王は眉間に皺を寄せた。


「……どういうことだ。この者達はお前の仲間じゃないのか」


「正確に言えば、仲間じゃないよ。──ただの駒。ボクにとって重要なのはその命じゃない。“使えるかどうか”だ」



酷く冷たいその口調に感情などあるはずもない。


「でも、感謝してほしいね」


「感謝、だと……?」


「そう。だってボク達は、この街の人々を巻き込んでないでしょ?」


「…………」


「まぁ国民に手を出したらアンタが恐いからね。ボクの駒たちも、アンタには少しも攻撃をしないでしょ? ちゃんと自分にはかなわないんだって知ってるんだよ。そこまでバカじゃないし」


おどけて言う少年に火王は怒りを覚える。


「何を今更。お前などに感謝する気はない。だが今すぐ攻撃をやめ引くのなら、それは別だ。無駄に追うことはしない。今回のことは目を瞑ろう」


「残念だけど、それはムリだね。彼らは攻撃をやめることはできない。憎しみに突き動かされ、その他の感情をなくしている。止めるなら、殺すしかないよ」


「貴様……ふざけるのも大概にしろ」


火王が少年に剣の刃先を向けた、その時。



「──あ。よかったじゃん。……ほら、救世主のご登場だよ」



少年の言葉に振り向いてみれば、そこには次々に闇を斬り倒していく者が一人。


その者は鮮やかな緋色の髪を風になびかせ、燃え盛る炎のような朱色の瞳をしている。



そう──



──アルフォンス・レンフィールド。



復讐に燃える者、その人である。












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