復讐の幕開け

様。少しお時間よろしいでしょうか?」


門番の騎士がドア越しに、そう中の者に呼びかけた。


「入れ」

その声が聞こえたと同時にドアが開き、騎士は部屋に足を踏み入れる。

そこは火ノ国を治める者の執務室。

本人の他には基本的に宰相しかいない。


「どうした」


そう騎士に問いかけたのは国王本人。

彼女の名はアーデント=レッドフォード。

女王兼騎士団長を務めており、彼女はこの世界において女帝と呼ばれる一人、火王かおうと呼ばれる者だ。


そして――


――この世界の炎、そして心を司りし火ノ神……〖火神かじん・アーデンティリアス〗である。


しかしそれを知る者は限られており、同様の神々だけ。

忘れ去られたあの神も、その一人だ。


「ある情報が入りまして――」


「情報?」


「はい」


「……言ってみろ」



「―――今夜、“闇”が襲来すると……」



火王の眉間に皺が寄せられる。


「闇、だと……? その情報はどこからのものだ」


「それが――」


騎士は先の出来事を話した。話していくにつれ火王の表情が厳しくなっていく。

話している騎士も、その表情からただの冗談ではないことを察し、その声も真剣なものに変わっていった。


「――ただの冗談かと考えたのですが、念のため伝えておこうと思った次第です」


その言葉でしめられると、聞き終えたはそっと目を閉じる。

神同士の念話だ。


沈黙が訪れ、聞こえるのは時計が時を刻む音のみ。


火神の目が開かれたと同時、彼女の凛とした声が響いた。


「【紅蓮の聖騎士団】全部隊に命ずる! 直ちに戦闘準備をせよ!! 繰り返す! 直ちに戦闘準備をせよ!!!」


それは神のみが有する能力によって、火ノ国の騎士団【紅蓮の聖騎士団】全員に命じられた。






『――動き出したぜ』


「そうみたいだね」


空からそれを見つめる黒い影は、一瞬にしてその姿を消した――……







夜。月が不気味に夜空で光るとき。

火王であり騎士団長でもあるアーデントが率いる騎士団が、街に分散するようにして待機している。

ほとんどの者達が“闇”の存在を信じてはいない。

空気はどこか緩んでいた。


「なんであんな噂話のために俺たちが戦闘準備しなくちゃいけねぇんだよ」


「しょがねぇだろ。女王様直々のご命令だ」


そんな会話まで聞こえてくる。



その時―――




「お待たせしました、【紅蓮の聖騎士団】の皆さん」




そんな声が響き、空に一つの黒い影が浮かんだ。

その顔は目深に被られたフードによって見えない。


「!! お前、何者だ……!」


騎士の一人が影に向かって問うた。



「ボクが“闇”だよ。キミ達が抹殺“闇”だ。そして――



――――【孤独なアインザーム 悪魔トイフェル】。……復讐者だよ」



「嘘、だろ……だって、“闇”は……皆、死んだって……」


「噂は噂。これが現実だよ、残念だったね」


少年がそう言うと、どこからかアーデントが現れた。

彼女は少年を睨むように見つめ、その見えない感情を読もうとする。


「お前が“闇”……【孤独なアインザーム 悪魔トイフェル】と呼ばれるものか」


「そうだよ。女王様直々にご挨拶とは、光栄だね」


どこか皮肉めいた言い方で返した少年。

彼からは何の感情も感じ取ることができない。

心を司ると言われている火神でさえ、感じ取ることはできなかった。


「お前が本当に“闇”だとしよう。だがお前一人に何ができる。例え、あの【孤独なアインザーム 悪魔トイフェル】だとしても、それもまたただの闇の少年だ。【紅蓮の聖騎士団】は手練れ揃い。私でなくてもすぐにお前を倒す」




「誰が、“一人”だって?」




瞬間、少年の背後に黒い影が次々と現れた。


その数は騎士団の人数を優に超える。


騎士団の騎士たちはざわめきだし、火王も眉間に皺を寄せた。


「何故……そんなに、闇が……」


騎士の一人が怯えたようにそう呟く。


「理由なんて必要ないでしょ? ボクはただ、キミ達と闘えればそれでいいんだ」


小さくそう答えた少年は笑みを浮かべ、そして街全体に響き渡るように声を響かせた。






「さぁ、始めよう……神々への復讐劇を――――!!!!」







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