音色
僕は音の色が見える。
音色とはよく言ったものだと思う。音の色。まさにその通りだ。僕はそれを見ることができる。見えてしまう。
僕が好きな色は、君の声。
キラキラと輝いている君の声。澄んだ水のように綺麗な君の声。
けれど、僕は気づいてしまった。
僕が一番好きなのは——
「なんでここにいるのよ!」
「もうあんたの顔は見たくない!」
「こっち来ないで!!」
僕を罵る君の声が、僕は一番好きだ。大好きだ。
だから僕は、君が僕を罵ってくれるように、君を苛立たせる。怒らせる。
「来ないでって言っているでしょ!」
僕が手を伸ばせば、君は深く眉間に皺を刻んで僕を見る。まるで汚物を見るように、嫌悪を剥き出しにして僕を見る。
君に触れれば、僕の手を払いのけ、ヒステリックに声を上げる。
「触らないでよ!」
その声の色も素敵だけれど、僕が一番好きなのはそれじゃない。
逃げる君の後ろ姿を僕は追いかける。
ハイヒールを地面に打ちつけながら、君が走る。派手な音を鳴らしながら、君が走る。
なんで女性はハイヒールなどという歩き難そうな靴を履くのだろうか。醜い色を撒き散らしながら、気取った風に。不思議だ。
君に追いつくのは面白いほど簡単で、僕は思わず笑ってしまった。
すると君は、さらに嫌悪を露わにして僕を睨みつける。
「何なのよ! あんたなんか嫌い! 大嫌いって何度も言ったでしょ!? なんで私をつけまわすのよ」
その言葉じゃない。僕が好きな声は。好きな色は。
もっと、もっと僕を軽蔑して侮蔑して罵れば良い。
君は最後に、あの言葉を口にしてくれるから。
君の左腕を掴むと、君は右手に持った鞄で僕を打ち付ける。
「離してよ! キモいのよ、あんた!!」
何度も何度も打ち付ける。
「ストーカー! 変態!!」
何度も何度も。
肩で息をしながら、それでも君は叫び声を上げる。
「あんたなんて——」
どんな声よりもサイケデリックで、蠱惑的で、毒々しくも美しい。
その言葉を吐き捨てるように言う君の声が、僕は大好きだ。
「あんたなんか、死ねばいいのに!!」
嗚呼。とても綺麗だ。
不可思議短編 安東りょう @andandryo
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