おかあさんちゃん

 座敷屋1階の催事場には大小様々な見世物が並んでいる。その中の一つに、『おかあさんちゃん』と呼ばれる展示があった。人形のパッケージを模した箱に幼児が一人括り付けられているものだ。その箱はまるで商品を陳列するかのように横一列に並べられており、様々な性別や肌の色をした子供が一人ずつ収まっていた。それらはあまり動くことはなく、皆一様に口を閉じ、伏し目がちに箱の中で佇んでいた。


 『おかあさんちゃん』は、近くにいるツカイに声をかけそのを買うことを宣言すると、代金と引き換えに箱の前扉を開けてもらうシステムとなっている。裸のおかあさんちゃん人形の身体中に食い込むワイヤーを一つずつ外すと、腕や頭はだらりと脱力したままその場に立ち尽くしていた。箱の中から人形を取り出し、更に同梱されていたいかにも安っぽいヘアブラシや、アルミ箔のようなシールを貼っただけの鏡を取り出していく。どれも下品なピンク色をしていた。


 『おかあさんちゃん』の一番の特徴は、その中に赤ん坊のような形をしたゴム製の人形(これは本物の人形である)が付属している事だった。1つのパッケージに1〜3体ずつ入っていて、拳ほどの大きさをしたピンクの塊を叩くと不気味に光りながら小刻みに震えた。今日買った箱には2つ入っていた。


 おかあさんちゃん人形と付属品を持ってすぐそばに設置されている簡素な衝立で仕切られたコーナーへ移動する。柔らかいジョイントマットを敷かれたプレイコーナーにそれを寝かせる。ここまで人形の反応はほとんどない。死体のように横たわったおかあさんちゃん人形の足を大きく開かせ、光る赤ん坊人形をずぶずぶと2つ捩じ込むと小さく声が聞こえた。赤ん坊人形の挿入口からはたらたらと滑る液体が溢れていた。予めおかあさんちゃん人形の中に注入されていたのだろう。難なく2つの赤ん坊人形を飲み込むと再び反応は無くなった。


 座る姿勢を取らせたおかあさんちゃん人形の髪をバリが刺さるような粗末なブラシで整え、これまた付属していた服を着せた。母と言う名の人形にはふさわしくないような淫靡な赤い服は、もはやランジェリーと言って過言ではないような薄いワンピースだった。左右の胸元はぱっくりと割れるような貝口状になっていた。その貝口の隙間から指を差し入れおかあさんちゃん人形の薄桃色の突起を摘み、やや無骨なクリップを取り付けた。クリップは強力で縦に潰れた突起はグロテスクな赤紫にじわりと色を変えた。もう片方も同様に潰してやると、しゃらしゃらと小さな鈴が付いた繊細な鎖が赤色の服によく映えた。おかあさんちゃん人形は苦痛に顔を歪ませていた。ずしりとある程度の重さがあるクリップは突起とその周りの柔肉を残酷に下垂させた。丈の短いワンピースの裾を暖簾のように軽く捲った辺り、赤ん坊人形の挿入口にほど近い突起はすでに真っ赤にぷくりと膨れていた。ワンピースと同じ生地で作られた小さなリボンのクリップを片手にそれを摘むと、おかあさんちゃん人形は後ずさった。構う事なくばちんと根元から挟むとおかあさんちゃん人形は大声で叫んだ。汚い音を立てて赤ん坊人形が飛び出た。地面に叩き付けられた赤ん坊人形は動かなくなった。


 再び赤ん坊人形を殴り付けぶるぶると光らせると、おかあさんちゃん人形の中に戻し、ついでにリボンをぴんと指先で弾いた。その度に1つずつ赤ん坊人形を産むが、まだ認知するわけにはいかない。(要するに、まだ産む事を許してはいない)なるべく耐えられるよう何度もおかあさんちゃん人形の奥へ叩き込むように挿入した。もはやおかあさんちゃん人形は人形である事を忘れ必死にその手を拒むが、人形の意思を考えるほど幼稚ではない。中には赤ん坊人形を使わずに遊ぶ者もいるようだが、それならば他でも用は足りるだろうと思う。ようやく腹の中に赤ん坊人形を収めると、おかあさんちゃん人形を四つん這いにし、赤ん坊人形の挿入口とは別にある別の挿入口へと指を挿した。


 すでに粘液に塗れたその穴はひくつき、唇のように鮮やかな色をしていた。解す必要はないだろう。ようやく本来の遊び方に辿り着いた。やや狭い穴を使って『子作りごっこ』をしばらく楽しんだ。穴の中は狭く、肉を隔てて赤ん坊人形がごりごりと蠢くのが伝わった。心地良い刺激である。おかあさんちゃん人形は破瓜の痛みに泣き叫んでいたが、じきに良くなると何度も慰めてやるとその内に叫ぶのをやめた。胸元のクリップを勢いよく引っ張り外すと穴をぎゅううと締め付け再び叫んだ。


 最奥へ2度3度精を放ち、ついでに用を足してから引き抜くと鮮血と尿が糸を引きながら滴っていた。まるで本当に破水したかのようだ。出産を促すために赤ん坊人形の挿入口を突くが腰を引くばかりで産む様子はない。仰向けに返し腹をゆっくりと撫でるが頑固にも子供を産む気にはならないようだった。腹を軽く踏み付けると喉を絞るような声をあげた。体重をゆっくりと掛けていくと、出ない、と半狂乱で足を退けようともがいていた。難産のようだ。おかあさんちゃん人形の足を大きく開き赤ん坊人形の挿入口を見ると、後ろの穴とは打って変わってぱっくりと開いたままの穴は乾ききっていた。恐らく始めに赤ん坊人形を収めるまでの無駄なやりとりのうちに粘液は全て流れてしまったのかもしれない。乾いた穴に手を突っ込み赤ん坊人形を取り出そうとするが、入り口から肉ひだを巻き込んでいて中々奥まで入らない。力を込めてぐっぐっと拳を捻り続けると、何度目かに勢いよくずぼりとめり込んだ。おかあさんちゃん人形は、かはっ、と息を吐くとそれきりあまり動かなくなった。


 乾いた穴の中から2つ目の赤ん坊人形を取り出す頃に何やら液体が突如流れ始めた。おかあさんちゃん人形の小便だった。

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金平糖 六腑の譚 旺璃 @awry05

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