魔獣と契約したけど魔法少女になれないハートフル物語《ストーリー》
オカノヒカル
第1話?
「あのぉ! スイマセン。わたし契約して魔法少女になったはずなんですけど、いつになったら敵と戦えるんですか?」
目の前に座るのは魔獣のカドフジちゃん。ウサギのような耳を持ちネコのような身体をした不思議な生き物だ。
わたし、一抹あかりは去年の1月1日にこの魔獣と出会い、そして魔法少女にしてくれるという契約を交わした。
戦いで傷ついたその生き物を自分の家で入れ、今日まで必至に匿ってきたというのに、いまだにわたしは普通の女の子だ。
「そうだね、契約はしたけど、いつ魔法少女にするかはこちらが決めるんだよ。魔法少女のなり手は多いんだ。もう少し待ってくれないか」
魔法少女になったらカワイイ服を着れて、空だって飛べると思っていた。でも、その夢はいまだに実現せず。
契約したのは小六の時だったから、今はもう中学生。魔法少女になるには少し躊躇してしまう年齢だった。
「待つって、もう一年以上経つのよ。わたしより後に契約したっていうサヨちゃんはもう立派な魔法少女だって言うじゃない。これはどういうことなのよ?」
クラスメイトのサヨちゃんはわたしと親友だった。だからそんな重要な秘密を打ち明けてくれたのだろう。とはいっても、わたしは秘密にしてたんだけどね。
「きみにそれだけの能力がなかったってことだよ。わかってるだろ?」
魔獣の丸く赤い瞳が僅かに細くなったような気がする。わたしを嗤っているのだろうか?
「能力って何? 能力があるから魔法少女になる契約をしてくれたんじゃないの?」
「能力はまったくないわけじゃない。でも、キミでは戦力不足だ。とはいえ、その状態で敵側に回られたらたまったものじゃない」
「だからわたしを魔法少女にさせないで飼い殺しにしてるわけ?」
カドフジちゃんを匿ってペットのように飼っていたと思っていたら、実は逆だったという話。どう考えてもおかしいでしょ?
「魔法少女はね、その強すぎる能力のため、魂が曇っていくんだ。そして何割かはボクたちを裏切り敵側に寝返るんだ」
「魂が曇る?」
どこかで聞いたような設定だった。
「そう、魔法少女でいるだけで、相当の人間のヘイトを集めることになる。それが彼女らを狂わせるのさ。怖くなったかい?」
カドフジちゃんは脅しをかけてくるような口調だった。
「……う……怖くないっていったら嘘になるかもしれないけど、でも、そんな大事なことを隠してわたしに「魔法少女にならないか?」って言ったわけ?」
アニメならよくあることかもしれないけど、さすがに自分がそれをされたら頭にくる。
「これも世界平和のためなんだ。わかってくれ」
そんなことを言われたら何も言えない。わたしだって平穏な世界を望んでいる。
「そういえばカドフジちゃんみたいな魔獣って他にも何体かいるの? もし魔法少女を見つけなくちゃいけないなら、わたしなんかに構っている場合じゃないでしょ?」
ふとした疑問。カドフジちゃんは一年以上うちに居候しているのだ。
「実はね、ネットに魔法少女が集う仕掛けを作ったんだ。そのネットに登録するには契約書を読まなければならないのだが、そもそも、そんなもの読まないで登録するやつは多いだろ?」
「まあ、わたしもよく読まないで『同意する』とかよく押しちゃうけど」
取説やアプリのインストール、今言われたネットで何かに登録するときなど、「めんどくさい」と大事な過程をすっ飛ばすことは多かった。
「そこがポイントなのさ。契約には魔法少女になった際の魔法はボクら魔獣が管理すると記載されている。でもね、それに伴う危険な状況には関知しない。つまり生死は保証しないと」
「……
わたしは煮えたぐりそうな腹の底から声を出す。
「おやおや酷いなぁ。逆に言えばあかりを魔法少女にしないのも、ボクの優しさみたいなもんなんだよ」
さっきは能力がないとか酷いこと言ってなかったっけ?
もう、わたしは呆れかえるしかなかった。これだけの話を聞かされて、まだ魔法少女になりたいとは思えない。
「そういえばさっき魔法少女のなり手が多いって言ってたけど、そんなに多いの? わたしサヨちゃんから話聞くまで他の子のことまったく知らなかったんだけど」
「それだけ夢見る乙女が多いのさ」
「なに綺麗ごと言ってるのよ!」
昨日まではかわいいマスコットだと思っていたけど、だんだん顔を見るだけでムカついてくる。
「ネットで集まった魂だけでも15000は超える」
「……ちょっと今、魂とか言わなかった。登録しただけで魔法少女にはなってないんでしょ?」
「だから登録した時点でもう、魂はボクらに売ったことになるのさ」
「ちょ……待って」
「同意を押したんだろ? それは契約が完了したということ。契約は全てさ。何よりも優先される」
(続くのか?)
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