第2話 さあ、★集めをはじめましょう!

「なにこれ? 『あなたのも魔法少女になれる カクヨムサイト』ってなんの冗談?」

 グーグル検索の途中でブラウザが固まって、再起動させたらなぜかそんなサイトが画面に開いていた。

 中の覗くには登録が必要なようで、長ったらしい規約とその下の『同意するボタン』を押さなければならないらしい。

 とはいえ、個人情報の類を入力させるわけでもない。ブラウザのCookieにでも認証させるパターンなのだろうか。

 これならば、どんな内容であれ恥をかくことはないだろう。あとで個人を特定されて「高校生にもなって魔法少女? m9(^Д^)プギャーーーッ」とかやられずに済むだろう。

「よし、同意と」

 あたしは長々と書かれた規約を読まずに同意ボタンを押した。

 するとなぜかノートPCの画面が光り出し、画面から飛び出るようにフェレットのような生き物が飛び出してくる、

「このPCって3D機能なんて付いてたっけな?」

 不思議さを感じながら天板部分を開閉させてみるも、飛び出してきたフェレットは宙に浮いたままだ。

「登録ありがとう」

「うわ、喋った!?」

「キミはこのサイトに登録するのは初めてだね。ボクは登録された魔法少女候補生にサポートとしてつくマスコットのヘルピーだ。キミの名前は?」

三枝さえぐさななかだけど……え? どういうこと? というかどういうシステム?」

 単純に目の前にいるフェレットヘルピーがいったいどうやって私と会話ができるのかを知りたかった。

「システムは簡単だ。このサイトにナナカの作品パトスを投稿して、スターを集めると魔法少女になれるという仕組みだ」

 ヘルピーの正体そのものを知りたかったのだが、いきなりそんな説明をされてもわけがわからない。

「ちょっと待ってよ。だいたい魔法少女ってなに?」

「魔法少女とは魔法少女さ。それはキミの方が詳しいんじゃないのかい?」

 ヘルピーの言葉に少しトゲがあるような気がする。

「し、知らないわよ」

「その奥の押し入れには、魔法少女ピピカのコスプレ衣装があるのではないか?」

 背筋が凍った。友達どころか親にでさえ内緒にしているというのに、なぜそんなことまでわかるのだろうか。

「……」

「ナナカのことならなんでもお見通しさ。学校ではオタク嫌いで通ってるけど、家ではコスプレ衣装を自作して魔法少女になりきる『とっても痛い女の子』だってこともね」

 コミケにも参加せずに家の中だけで完結している趣味。本来なら誰にも知られていないはず。

「なんで知ってるのよ。どうやって? え? この部屋って監視カメラでも付いてるの? 誰かストーカーでも住んでるの? え? え? え?」

 あたしは軽くパニックになっていた。

「落ち着けナナカ。今現在そのことを知っているのは、サポーターとなったボクひとりだけだ。口外しないから安心したまえ」

「……っうぐ」

 涙目になってヘルピーを見る。

「魔法少女になりたいんだろ? だからナナカにはあのサイトにアクセスできたんだよ」

「そうなの?」

「ボクはキミは魔法少女になれるために精一杯のサポートをしてあげるよ。契約に同意してくれたんだからね」

「契約?」

「とりあえずナナカはこのサイトのルールとか知らないだろ。詳しく教えてあげるから、落ち着いて座ってくれないか」

「うん、わかった」

「まずはキミの作品パトスを登録する」

「パトスって何?」

「キミの『想い』さ。キミ自身を表現するもの」

「どうやって登録すればいいの?」

「PCの画面に手を載せて。そして頭の中に描いたものを送る」

「送る?」

「念じればいい」

 あたしはヘルピーに言われたとおり液晶部分に手を載せ、頭の中で自分が思い描く理想の魔法少女を念じる」

「よし投稿完了だ。右上にナナカの名前があるだろ? そこをクリックしてくれ」

「うん、したよ。あ、名前が大きくなった。その右側が空白だけど、ここにプロフィールが載るの?」

「デフォルトでは空白だから、その右端の『プロフィールを編集』ボタンを押して何か書いておいた方が有利だぞ」

「有利?」

「とりあえず書いておけ」

 ネットではあまり個人情報はさらしたくない。名前が載っている時点でかなりヤバイ状況だ。同姓同名の別人物と装う方が利口だろうか? そんなことを考えてしまう。



『 魔法少女が大好きなレイヤーです 夏コミお疲れさまでした!

  早く魔法少女になれるといいなぁ              』



 本当の事と嘘の事を織り交ぜて書く。そしてけして本心は晒さない。それがあたしの信条。


「できたよ」

「ん? まあ、いいか。そしたら、有利になるためには他の魔法少女候補生も見ておいた方がいいな」

「え? 他にもいるの? あ、そうか。他にも登録できる人がいるんだね」

 トップページに行くと、文章化された作品パトスが画面いっぱいに並んでいる。

「今のところ一万人くらいの登録者がいるよ」

「いちまんにん?」

「とにかく魔法少女になりたいならスタートダッシュが基本だ。誰でもいいから気になった作品パトスをクリックしてフォローするんだ」

「フォロー? Twitterみたいなもの?」

「そういうこと。フォローすればフォロバが来て相互となる。相互になればナナカの作品パトスを見てくれる人は増えるはずだ」

「そういえばさっきスターを集めるとか行ってなかった?」

「他の候補生のパトスを見て、良いと思ったらスターを付けるんだ」

「で?」

「それだけだ」

「え? あたしはどうやってスターをもらうの?」

「もらえる努力をしろ。サポーターとして言えることはそれだけだ」

「いや、全然わかんないから。説明不足過ぎでしょ」

「ヒントは言ったはずだよ。他の候補生はそれでスターを集めている。例えばその子」

 再びトップページに戻ると、ヘルピーが右中央部の作品パトスを指す

 文章化された作品パトスの下にはスターマークがあり、その横に数字が記載されている。その数字は1027を示していた。

「なにこれ? この人こんなにどうやって集めたの?」

「魔法少女としての能力の高さも必要だが、最終的には知略がものを言う」

「知略?」

「規約をきちんと読んでいれば、その方法の一つもわかったのにな」

「規約? もう一度見られないの?」

「おやおや? 読んだから同意を押したんじゃないのか?」

 嫌みったらしくヘルピーは言う。

「あたし長い文章は嫌いなのよ」

「まあ、キミの性格は把握しているからね。もう少しだけヒントを上げよう。実は『同意しない』を選んだ後に『与える者ヨミセンとして参加しますか?』とのメッセージが出るんだ。しかも与える者ヨミセンにはサポーターは付かない」

 何を与えるかは予想が付いた。

「それに参加するとスターを与える者になれるというのね。魔法少女候補生を選ぶ立場か。それはそれで面白いかもね」

「そうだね。でもね、実際はそんな純粋な人間ばかりじゃないんだよ」

「どういうこと?」

「複垢って知ってるかい?」




(まだ続けるのか?)

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