無能の騎士 ━Road Of Knights━

きなこもち

第1話

憧れ。最初はただそれだけだった。

村を守る騎士だった父に憧れ、本の中の英雄に憧れ、ただ、強くて格好のいい彼ら強者に憧れた。悪者からお姫様を救い出したり、一人で押し寄せる軍勢を相手どったり。そんなことができる英雄たちに憧れた。

彼らは強い。しかも、その強い力を誰かのために振るい、人を守り、救ってきたのだ。子供、特に男の子ならば誰もが憧れるだろう。

自分の場合は、それが少し早く抱いたものであり、少しそれが長く続いているだけなのだ。

だから、たとえ届かないとしても━━━━






武技 1位 100/100 魔術理論 1位 98/100 魔術実技 115位 41/100 戦術論 1位 97/100 薬学 2位 98/100 歴史 1位 99/100


総合成績 3位



「……代わり映えしないなあ」


王立王都騎士学校の3年生、リンバート=コールフィールドは掲示板に張り出された成績上位陣の2年修了時の成績を見ながらそう呟いた。上位陣の面子は、トップ10は入学以来一切の変動はなく、順位すらも1年以上入れ替わりはない。

もう一度軽くため息をついてから再びその成績を見上げる。何度見ても変わるわけではないが、何度も見ることで自分より上位の二人との近いようで遠い距離を再確認するのだ。

そうして次は抜いてみせる、と心の中で決意していると、周囲の声が耳に入る。



「今回も上位陣に変わりなしかよ」


「まあ、黒槍、雷炎姫の2トップは鉄板だよな。あいつらが抜かれるなんて想像もできねーし」


「でもよ……」



上位陣に対する、称賛、或いは上を諦めた言い訳のような言葉。

自身では及ばないと言う諦観に満ちた声でもあった。

あまりに実力の隔絶した同級生に彼らは競おうとすら思っていないように聞こえる。

だがそれでも2人に対する好意の声であったそれは、3人目に対して向けられた途端に懐疑、或いは嫉妬のような悪意に満ちた言葉へと変わる。



「毎度思うんだけどよ、なんで“無能”が3位なんだ? 」


「さあ? 家柄がいいってわけじゃないし? どんな手使ってるんだか教えてほしいくらいだよ」



“無能” 俺、リンバート=コールフィールドにつけられたあざなの一つだ。

この世界に存在する魔術と呼ばれる力。戦場において最も強力な力の一つであり、騎士に欠かせない力であるそれの最も大きな戦術的意味を持つ力。その中の体の外で行う類の物が一切できない俺を揶揄する言葉である。体質的な問題もあるので俺からすればそこまで気にしているわけではないが、こうまで聞こえるような声で言われると多少は堪える。



「よお! 優等生! 」



少し気が沈みかけたその時、後ろから肩を組みながら、調子の軽い声で突撃してきた。

おかげで腕が首にあたり、少々痛い。



「走りながら肩に手を回すな。おかげで首が痛い」



行儀が悪いというか、何というか、まったくこいつは……

首をさすりながら睨みつけつつ言う。

1年の時からのクラスメートで友人でもあるその男は不敵に笑いながら何もなかったかのように会話を始めだした。



「そら、すまん。んで、おお。さすがリン。3位キープしてるな」


「まあ、努力で何とかできるところが多いからな」



この赤みがかった茶髪の軽い感じの男はレイジ=カークランド。貴族のお坊ちゃんで魔術の才媛の癖に俺とつるんでいる変わったやつである。

あまり多くはないのだが、貴族連中、特に血筋にこだわる上流貴族の中には魔術至上主義者という者がいる。魔術の限られた、ほんの一部しか使えない俺はそいつらにとって蔑視の対象である、というわけだ。因みにレイジの実家はガッツリその派閥であったりもするのだが。

才能はあっても俺なんかと一緒に居たりするせいで放蕩息子と呼ばれているらしいが……まあ、こいつの性格上それがなくてもそう呼ばれていそうだし、呼ばれていてもどうともせずになんとかするだろう。



「それで、お前はどうだったんだよ」


「ん、ほれ」



レイジに自分はどうだったのかと問いかけると紙の端の方を指さした。

指の指された方を見て探すと、あった。

48位。やや上位、といったところか。200人中の47位な訳だから良い方と言えば良い方だ。成績上位者のみが希望できる総合学科も申請できる。

俺もレイジも希望している学科だ。



「じゃあお前も総合科か」


「おう、騎士科な」



総合科。通称騎士科と呼ばれる成績優秀者のみ選択できる学科だ。

総合科の卒業生は卒業時の階級が他の学科の卒業生よりも高いことも相まって一番人気の高い学科である。騎士を目指す生徒を育てる学校の優秀者のみが入れる学科ということでいつからか呼ばれ始めたのが騎士科という通称らしい。

2年修了時の希望届けに成績を加味して3年時に学科配属されるので、総合科希望の生徒はもれなくこの成績表を見に来ているわけである。


張り出された成績表を今一度見て、決意する。

必ず、1番になって見せる、と。



王立王都騎士学校3年、春。

物語が始まる。

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無能の騎士 ━Road Of Knights━ きなこもち @kinakomochi_ryousuke

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