第十三幕『アジトの生活』
ヴィカーリオ海賊団のアジトのある島では、基本的に無駄を省く。必要最低限の居住区しかないので、家族の居る船乗りたちは家へ帰るが、一部の独身船乗りはアジトでも寝泊りは基本船の中だ。奴隷上がりの船員たちの一部は、同じく奴隷だった女たちと結婚していて、出航に際して残して行けるものは子種くらいのものだったワケだから、既婚者たちは殆どが子持ち。その最年長は五歳だ。一年振りの再会で、みな一様に羽根を伸ばした。
寝泊りは船で問題なかったが、折角陸に上がったのだから静かに実験出来る場所が欲しいと進言し、診療所の一室を借りる事にした。マルトには申し訳なかったが、薬屋は酒場に臨時移転して貰った。クラーガ隊の面々と昼間は診療所に篭り、技術書の検証実験に励んだ。
陸に上がって三日目。ラースが早々に陸での生活に飽きて船を出そうと船員たちに言い回っているが、皆家族と農地の世話をしたり、子供の相手をしていたりで聞く耳を持たない。その内小さな子供たちを連れ立って、新生ヴィカーリオ海賊団だ、と言って駆け回っていたから、もう暫くは陸での生活が続けられそうだ。
朝昼晩の飯時には、集落の女たちとジョンが毎食のように腕を振るってくれた。マルトの作る飲み薬や禁煙用のハーブの飴を求める人だかりも、五日頃まで続いていた。
陸での生活が一週間を過ぎた頃。エリーの遺骨を使ったダイヤモンドの生成に入った。専用に設えた装置に砕いた遺骨から抽出した炭素を入れて魔法の力を掛けていく。炎の魔法で高温にし、同時に闇の魔法で重力場を作り出して超高圧を掛けて結晶化を図る。その実験の様相を一目見ようと、火入れのタイミングには集落中の人間が診療所の周辺に集まっていた。結晶の精製までには時間を掛ければ掛けるだけ良い結果が出る。ラースには長い間のマテをさせる事になるが、果報は寝て待てだ。
農作業をする者たちに、採って来た魚たちを加工する者たち。採れたトウモロコシを商船に運ぶ者、集落の全員が何かしらの仕事に従事している。それは全て自分たちのための仕事であり、仕事をした後は皆一様に休息を取っていた。
時々、彼らの仕事に寄り添うように、二人きりの音楽団が音楽を奏でていた。せっせと働く人々の横で、テンポの良い音楽と歌が流れ始めると、皆口々に歌を口ずさみながら手を動かした。休息の頃には、柔らかな音色が程よい睡魔を呼び寄せてくる。
ダイヤの生成に入って後は待つだけになってしまった僕は、新たな技術書の解読と共に、洞窟港内にある一室の調査を任されていた。
「俺も此処を見つけた時に一度開けたっきりでね。何だか妙な物ばっかり転がってて、どう手を着けていいか分からず仕舞いでね」
上り階段の裏側にひっそりと隠されていた地下への階段の先に、その一室はあった。岩盤が風化して埃となって降り積もっていたが、中にある物はそう簡単に朽ちるような物ではなかった。何しろ蝕の民の遺物なのだから。
「此処はきっとお前さんの担当だ」
ジェイソン船長とラースに揃って厄介事を押し付けられた感は拭えなかったが、お掃除隊の異名を発揮する時が来たと、クラーガ隊が息を巻いて居たので、僕もその勢いに乗る事にした。
掃除用に軽装になり、口元にマスク代わりの布を当てて、床に散乱した物を港の一角に運び出す作業と、埃を落として遺物を改める作業を続けた。そんな中、音楽隊の二人の歌声がエリザベート号の甲板から港の仲に響き渡った。
「テンポが良くて、ノれる曲ですね」
クラーガ隊の砲撃手副隊長カルムがその長い耳をユラユラさせながら、音楽隊に合わせて唄を口ずさんだ。
港の中と地下室に響く音楽は反響して、どれが誰の声か分からなくなる程だった。そんな音の中、僕も自然と歌を口ずさんでいた。音程が外れるから、と歌えなかった歌を口にしながら、僕は掃除に没頭した。
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