第十二幕『闇』

 ラースの抱える心の闇に、僕は一歩踏み込む。土足で、慇懃無礼に。


「エリーの遺骨がこの島にあるんだよな。それで、お前の新しい武器に使うダイヤを生成したい」


 その土足の一歩で、ラースの闇がどう動くのか。


「え?」

「エリーの遺骨でダイヤを作る。そしてお前の武器に使う。分かったか?」

「は?マジで?」


 踏み込んだ一歩が、ドロリと飲み込まれた。


「マジでそんな事出来んの?」

「……お前は何を聞いていたんだ?たった今、懇切丁寧に説明したばかりじゃないか」

「いや、聞いてた聞いてた!聞いてたけど、本当に出来るのか?エリーの骨で、ダイヤを作って、それで、俺の武器を作るとか」

「出来る算段がなければ、こんな事冗談でも口にしない」


 そりゃそうだなよ、と呟いたラースの顔が、次第に暗い笑みへと変わっていく。


「……マジで、少しも残らず手元にエリーを置いておけるって事だよな?」


 勿論だとも、と即答してやれば、ラースは華が咲くように笑った。


「もう、エリーを暗い床の中に置いて行かなくて良いんだよな?そう言うことだよな?頭骸だけじゃなくて、体の骨を全部ダイヤにして、一緒に行けるって事だよな?俺な、本当はエリーの骨を全部持って海に出たかったんだ。だって嵩張るだろ?でも、ダイヤになれば、俺の新しい武器になれば、いつでも一緒に居られるって事だよな?夢が叶うって事だよな!」


 目をキラキラと輝かせて、ラースが僕の手を取る。キラキラ輝く瞳は、まるで暗い沼の表面のようで、その先は濁って底が見えない。ああ、何て心地良さそうな闇。


「お前、そんな夢を持ってたのか」

「俺はエリーとひとときだって離れたくなかったんだぜ?」

「なら、願ったり叶ったりだな。絶対に武器作りを成功させるよ」

「あぁー!メーヴォ!愛してるぜ!」


 ぶわっと腕が広げられたと思ったら、ラースに抱きしめられていた。苦しい。


「やめろ、胸焼けしそうだ」


 あと苦しい。バシバシ背中を叩くな痛い。


 無理矢理ラースを引きはがして、こっそりポケットから盗られたダイヤを返してもらい(代わりに使い物にならない虎鯨ダイヤをくれてやった)、僕は改めてラースにエリーの墓の場所を聞いた。


「教会の十字架の下だ」


 随分大きな墓だな、と言ってやれば、直接土に入れて朽ちてしまっては意味がないから、箱に入れて地下に安置していたと言う。それならば保存状態は良さそうだ、と幾つかあった不安の一抹を拭う。


 ラースと一緒に教会を訪れ、隠し収納から取り出された質素なチェストから出て来たのは、真っ白に輝く人骨だった。大き目の骨が綺麗に残っている。


「綺麗な骨だ。状態も良い」


 その時の僕の眼は、きっとラースと似た目をしていたに違いない。嬉しそうにチェストを渡してくれたラースが、期待を篭めた声色でへへ、と笑った。


「よろしく頼んだぜ、相棒」

「世界で一つだけの、お前のための武器を作るからな」

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