第十一幕『展望』

「つまり?」

「つまり、虎鯨の骨を使って実験したんだ」


 巨大な虎鯨の骨は巨大な炭素の塊だ。もちろん不純物が交ざる事も念頭に、虎鯨の骨からダイヤを作る実験を繰り返した。


「それがコレ?」

「そう言う事だ。ただし、僕が欲しいダイヤとは違う」


 またメーヴォの難しい話が長引くな、と言う渋顔をされたが、もう少し話に付き合ってくれ。しっかり話を通さないといけないんだ。


「その人工ダイヤは、天然物が持つような宝石の魔力が乏しいんだ。僕が欲しいのは、天然物に匹敵する、魔力を帯びた人工ダイヤだ」


 天然物の宝石は生成の過程で蓄積した、その土地の天然魔力を帯びているものだが、虎鯨の骨ダイヤはほとんど魔力を帯びていない。それでは魔石や魔力を増幅する石の代用として使えない。虎鯨も頭のいい哺乳類魚種に分類されるが、魔法を使用するような高度な知恵も無く、体内に魔力を循環する器官も持ち合わせていない。元々の炭素に魔力が宿っていればいいのでは、と言う考え行き着いたのは程なくだった。


「で?」

「鯨の骨でダメだった訳だから、次にやる実験が何かくらい、想像に難くないだろう?」

「……虎鯨狩ってって頃だよな、それ。もしかして」

「その、もしかして、だ」

「あの捕虜、無駄無く使っちゃったって事か!」


 ご名答!言って僕は別の内ポケットから、小降りのダイヤを数個取り出した。微かに青みがかった人工ダイヤだ。


「なんだコレ、すげぇ……青いダイヤとかマジかよ」

「人間の骨を使えば、元々その人間が持っていた魔力を少なからず宿した人工ダイヤが出来上がると言う仮説を立てた。コールが血を吸い尽くして、マルトとジョンに解体してもらった人骨でダイヤを作った。人骨になら魔力が蓄積されているんじゃないかって仮説は、見事証明されたってわけさ」


 そうして作られた人工ダイヤは、既にコールの持つ黄金銃に搭載されている。


「まさに悪魔の所行だな」

「悪魔も恐れを成す、ヴィカーリオ海賊団だろう?」


 違いねぇや、と笑うラースの目の奥に、金儲けと虐殺への期待が黒い炎となって燃え上がっていた。


 鯨の骨でダイヤを作って売り捌き、商船を襲った人間たちは骨まで無駄無く解体してダイヤにする。強力な武器や便利な道具で団の強化を図れる。


「まさに錬金術たぁこの事だな!」

「それで、一つ相談があるんだが」

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