第十幕『報告』
集落には東西南北に伸びる十字の道があって、それに沿って居住区、教会や診療所などが点在していた。南側に港があるから、真反対の方に船首岬と名の付いた島の端がある。断崖絶壁は海へと迫り出して、確かにその形は船首のようにも見えた。
木漏れ日色の長い髪を潮風に靡かせ、ラースはそこに佇んでいた。
「ラース」
風に声がかき消されないように、少し大きな声で呼べば、ラースは大げさに驚いて振り返った。
「メーヴォ……何だ、驚かせんなよ」
「お前でも驚く事があるのか」
「俺の硝子のハートは大事に扱ってくれよ」
随分分厚そうな硝子だな、と言ってやれば高そうだろう?と冗談の押収はいつまでも続いてしまう。
「話があって来た。今良いか?」
「おお。何だ?次のお宝の話か?」
「気が早いな。しばらく此処で羽休めするものだと思ってたぞ」
陸の時間はつまらないが、陸でなければ出来ない検証実験や作業もある。波に揺れる甲板も恋しいが、今は揺れない土の上でしか出来ない作業もしたい。
「今後の活動についてと言う点では間違ってない。まずは、コレだ」
言って僕はコートの内ポケットから大振りのダイヤを一つ取り出してラースの眼前に差し出した。
「はっ?えっ、なにコレ!すっげぇ!でっけぇダイヤじゃねぇか!そうだよな?どうしたんだコレ」
想像以上の反応を返されて押されかけたが、掴みとしては悪くない。
「人工ダイヤだ」
そう答えを出してやっても、ラースの驚きの顔は困惑が混じって変わらなかった。それもそうか。
「人工?これ偽物なのか?」
「天然物ではないだけで、正真正銘のダイヤだ」
「どう言う事なの……?」
ダイヤモンドはその構成物質が炭素のみで構成されている。炭素を人工的に高温高圧で圧縮すればダイヤモンドが出来上がるのではないか、と言う仮説は昔からあったが、今のところ前人未踏の地である。
しかし、蝕の民の技術書の中に、それを可能とさせる術が記載されていた。
「マジでか……」
「で、闇の魔法と炎の魔法が得意なジョンとその部下に協力してもらって、何度か実験をしていたんだ」
手近に入手出来る炭素と言えば石炭だったりするが、石炭を実験に使うほどヴィカーリオも自分の懐も暖かくはない。では炭素を何処から調達するか、と言う時に、ジョンの虎鯨の実験の話が上がった。
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