第八幕『探し人』

 半ば死に掛けたところで解放され、僕は賑わう酒場に鉄鳥を迎えに向かった。酒場では戸を閉め切って日光を遮断し、コールが集落の女たちに採寸をされている所だった。それを眺めるレヴの頭に鉄鳥が陣取っていた。


「白魚に貰った反物の出番か?」

「あ、メーヴォさん。そうです、お姉さんたちにお願いして、コールの服を作ってもらう事になってます」

「私の為に皆様からご尽力頂けるこの身の幸よ……マリー様の時代では、吸血鬼の私はこのように好待遇など受ける事は出来ませんでした……あぁ、マリー様のお手を思い出します」

『あるじ様!わたくしめの不甲斐無さを叱咤してくださいませ!うっかり寝こけてしまったなど、従者たる者として失格でございます!』


 片や新たな主の待遇に喜び、片や自分の失態を嘆き、賑やかな事だ。


『お前を置いていった僕の過失でもある。気に病むな』


 ふわりと浮いた鉄鳥は僕の左耳の定位置に納まって、それでも謝罪の言葉を口にしていた。


「ラースは何処に行ったか知ってるか?」


 鉄鳥の位置を直しつつ、レヴたちに問う。昨夜、話の最中に寝てしまったラースは、ジェイソンの手を借りて近くの作業小屋に移動させた。何処で寝たら良いか分からなかった僕も一緒にそこで眠ったのだ。今朝方二日酔いだと言って起きなかった彼を放置して挨拶回りをした後、姿が見えなくなっていた。


「二日酔いだったなら、マルトさんのところじゃないですか?」

「ああ、そうか。……で、マルトは何処に?」

「はは、マルトさんなら診療所です。教会には行きました?教会を正面にして右手に行くとすぐです」


 何だすれ違ったかな、と呟きつつ、レヴに礼を述べて僕は診療所に向けて足を延ばした。


 そう大きくない島の中、歩いているとあちこちで、やあ新入りのメーヴォさんとか、隊長さんとか、沢山声を掛けられた。人との関わり合いは極力持ちたくない性分だが、此処に住む人たちは何処か明け透けで、その一言一言に裏を感じず、居心地の悪さは無かった。

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