第七幕『仲間たち』
翌日、二日酔いのラースを他所に、僕はヴィカーリオ海賊団の新しい顔ぶれと挨拶を交わしていた。
集落を歩きながら見つけた、小さいながらも造られた教会に居た音楽団の二人と対面した。
「初めまして、手紙で色々聞いてます。アリス=ウォーレンっす。ヴィカーリオ海賊団で、爺ちゃんと音楽隊を組んでます」
可憐な少女が海賊団の歌姫と言うのは中々乙な話だ。その祖父だと言うエドガーと言う紳士的な初老の男とも握手を交わした。
「エドガーだ。楽隊の長と言う名目だが、私と孫の二人きりの楽団だ。前の出航のタイミングに私が風邪をこじらせて共に行け出来なくてね。その間に船長は素晴らしい相棒と出会えたようだ」
「僕も人生観を改められた一年でした。今後、よろしくお願いします。僕は音楽が全く駄目なんで、是非ご教授願いたいです」
ハッハと笑った楽隊の二人は、次の出航から再び船に乗り込むと言う。いつも賑やかだった船乗りたちの唄が、より賑やかに華やかになる事だろう。
次に僕が挨拶を交わしたのは、船大工の棟梁と言うエルフと巨人族のハーフと言う男だった。港で船大工たちが風の魔法を駆使しながら船底のフジツボや海草除去している所だった。
「船大工の棟梁をやってるよ。ルイーサだ。よろしくな!」
エルフの血族らしい美しい顔立ちと長い耳をしていながら、その体格は巨人族の船医マルトよりがっしりしていて逞しい。何となく腹立たしさを感じるが眼を瞑る。
「よろしくお願いします。砲撃長を任せられている、メーヴォ=クラーガです」
「噂はかねがね聞いてるよ。随分頭もいいって話で」
「船長を差し置いて頭が切れるかどうかを問われると、返答に困るけれどね」
「……ならメーヴォさん、少し質問をしても?」
その瞳が不意に曇る。開いた口から出て来たのは、随分と哲学的な話だった。奴隷上がりと言うが、船についての知識は人一倍興味を持って勉強したと言う所か。
「一隻の船の全ての部品を新品に置き換えた時、それは同じ船であると言えると思うか?」
「なるほど、面白い問いだ」
テセウスの船と呼ばれる、パラドックスの一種だ。哲学者たちは喜んで討論する話だろうが、残念な事に僕は哲学者ではなく技術者だ。船大工として彼が望む答えは、同じ技術者である僕なら分かる。
「その船を……そうだな、例えばエリザベートと名付けよう。エリザベート号が幾多の戦いで破損して修繕されようとも、ヴィカーリオ海賊団が乗る船はエリザベート号で間違いない。どんなに新しい部品に挿げ替えられようともな」
無機物に個を与え、それを一つの人格として認めようとするのは、技術者の悪い癖だ。僕のヴィーボスカラートも、原形を留めない位何度も修繕し、手を加えてきた物だが、それは僕の大切な武器で間違いない。
僕の答えを一頻り聞いたルイーサは、何とも言い難い顔で息を止めていた。え?と思った途端に、その顔が嬉し泣きに変わり、自分の体が宙に浮いていた。
「うおぁ?」
「流石ラース船長が選んだ男だ!すげぇ!すげぇよ本当に!」
全く同じ答えだ、とルイーサは僕の事を持ち上げてくるりと回り、更に熱い抱擁を仕掛けて来た。苦しい。
「ラース船長とおんなじ答えだ!俺もそれ聞いて船大工続ける気になったんだ!」
すげぇや、と連呼する頭の軽さで、やはり奴隷上がりなんだなと実感しつつ、軋み出した肋骨に僕は本気で抵抗をした。
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