第六幕『結成』
「パーフェクトな回答だな、クラーガ殿」
不貞腐れたラースを他所に、にやりと誰かの笑みに似たそれを浮かべて、ジェイソンは拍手した。懐から煙草一式を取り出して一服失礼するよ、と火を灯した。
「で、俺たちは十人くらいの若造引っ連れて、適当な商船を襲って海賊船にしてやった訳さ」
その後、少しずつ商船や奴隷船を襲いながら、ヴィカーリオ海賊団は規模を拡大して行った。
「転機になったのは、奴隷商人のレガルドとシリウスって二人組みが絡んで来てからだな。そいつらが曲者でね。依頼と称して海を渡りたいって言って来たりしちゃあ、手持ちが少ないから現物支給でいいかっつって、奴隷をホイホイっとヴィカーリオに置いて行ってな」
そんな奴隷商人たちは、ラースの何を気に入ったのか、それとも商人であるジェイソンにツケを抱えさせたかったのか。
ある時、船の護衛を頼まれろ、と剛毅な依頼と共に、レガルドとシリウスは一隻の奴隷船を引き連れて現れた。船はブリッグ船で、五十人を越える奴隷が船員として乗っていた。目的地はゴーンブールの南東。
「……つまり、この島?」
「ここは元々俺が偶然見つけた島で、隠れ家にしてたんだが、何処からそんな情報を掴んできたのかねぇあの男は」
奴隷の半分は女子供。半分はそこそこに体力のありそうな若者たち。ブリッグ船は奴隷船から海賊船エリザベート号へと変わった。
ブリッグ船は片舷十門・総二十門の砲台を装備しており、マストは二本で横帆。軽快な走りをする全長五十m、総重量にして四百tと言うかなりの大きさだ。船底に『浄化の樹』と呼ばれる超高級樹木を生やしており、海水を真水に浄化出来る上、竜骨に根を張り巡らせて船全体を強固に結合していた。どうやら元々は観光の国バルツァサーラの王族が使用していた船だったが、奴隷商人の二人がとその王族と取引した際に報酬として貰い受けたそうだ。観光の国と名高い西の大陸の単一国家バルツァサーラだが、その人の出入りの多い土地柄、秘密裏に奴隷の売買が横行していると噂は絶えない。
そんな一財産ともなろう報酬を、手に余るからと言う理由で当時のラースに処遇を任せたいと言う、豪気な奴隷商二人からの申し出はまさに天からの贈り物だった。一介の海賊が持つには過ぎた船ではあったが、だからこそあの快適な航海が出来ると言う物だ。
奴隷たちは島の住民になり、集落を作る仕事に追われた。エトワールは、奴隷たち相手に教鞭も取った。読み書きと四則演算。人に教える事なんて出来るとは思わなかったと、エトワールは自分の新たな側面を見つけて喜んでいた。各地で必要な資材やらアレコレを集めてくる内に、今ヴィカーリオで活躍するメンツの大半が何だかんだで集まって来た。
「医者のマルトと、料理人のジョンシューが来た時はえらい歓迎振りだったな。で、この集落が出来るまで三年くらいかかったかね。女子供と長期の航海に向かないヤツが此処で農作業して、船乗りになるって男たちとラース船長は海賊家業。舌先三寸で相手を丸め込む基本は教えたが、応用力の高さと言うか、アイツの天性だったんだろうな。宝石商を偽るなら俺が根回し出来た。あのレヴって子が入ってからは書面なんかは幾らでも偽造出来たから、こっちも随分稼がせてもらった。順風満帆かと思ったけどね……」
言いよどんだジェイソンに、その先の話題は大よそ見えた。
「ありがとうございます。大体の話は分かりました」
すっかり寝息を立てているラースをチラリと見て、ジェイソンに礼を述べる。ぷはぁと大きく吐き出された紫煙が夜空に溶けていった。
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