第六幕『惨状の中で』

 宣言通り三日で情報を仕入れたレヴの情報を元に、天文学者の吸血鬼コールの指し示す方角と長年培って来た航海術を足して、本来なら避けて通る海軍の巡視船の航路を導き出す。七日後にはヴィカーリオ海賊団は海軍の巡視船の襲撃に成功した。


 遠く微かに見え始めた帆船に向けて副船長エトワールの不意打ちの超遠距離射撃で見張りや甲板に居る数名を狙撃、更に逃走されては困るとセイルに火炎弾を打ち込んで炎上させる。混乱する船に風の魔法で急速接近して強襲すれば、対応出来るような兵士は早々に居ない。船に乗り移って銃を放ち、得物を振るって次々と兵士を切り倒していく。


「全部殺すな!今回は捕虜を捕まえろ!」


 船長ラースの指令に、生きて掴まえられた捕虜がきっちり十人。仕官クラスの兵士も数人居て、それらはクラーガ隊が引き受ける事になり、下士官兵六人が医療班と料理班の元に託される事となった。


 殺戮と略奪の終わった海軍巡視船の甲板で、船長ラースはそこに立ち込める硝煙と血の匂いを胸いっぱいに吸っていた。


「っあー……たまんねぇなこの匂い」


 それが非人道的な行為であっても、一つやり遂げたと言う達成感でラースは満たされていた。


「さて、最後は私の出番ですね」


 血みどろになった甲板や船内を、吸血鬼コールがレヴの影の傘の下で徘徊する。その長い白髪で舐めるように血液を吸い上げ、彼は食事をしていた。血に貴賎なし。惜しげもなく流された血を一滴残らず彼は吸い上げ飲み尽くす。その彼に付き添うように、先日盟約を交わしたレヴが影を操って日差しからコールを護るのだ。消滅しないまでも、太陽光でコールの皮膚は焼け爛れてしまう。その辺りは本当に吸血鬼なのだな、と多くの水夫たちが物珍しげに眺めている。


「ありがとうございますレヴ様。私のためにわざわざお力添えを頂けて、嬉しゅうございます」

「普段あんまり食事が出来ないんだから、沢山飲んでおいてください」

「はい、レヴ様」


 デコボココンビは互いを助け合うように、にこやかに惨状の後を歩き回る。その間にクラーガ隊が船底に爆薬を仕掛け、船を沈める支度に取り掛かる。こうして計画された捕虜確保作戦は、滞りなく達成された。

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