第五幕『計画』
「船長。オレんところの捕虜はな、人数が欲しいねん。五人はいる。あと虎鯨を捕まえてぇんや」
料理長ジョンが独特なイントネーションで話す。聞けば、食糧事情を左右する実験をしたいと言い出して、ラースはやはり興味深くそれを聞いた。
「虎鯨て、毒持った鯨がいんら?しょっちゅう鯨の群れに紛れ込んでて、時々引くハズレのヤツや。アイツ捌くの練習したいん。前に手に入れた鮪包丁があればイケると思うんや。アレが捌ければ、今後の食糧事情が改善されると思うてな」
鮪包丁とか言ってるけど、お前それ由緒ある古代人の遺産の武器なんだぜ?十二星座の名を冠したオーストカプリコーノと言う名の大太刀の所持を許されているジョンは、それで調理の難しい虎鯨を調理したいと言う訳だ。
虎鯨は鯨の群れに紛れ込んで生息する強力な毒をもった鯨の一種だ。その毒と巨体で、対する海洋生物はクラーケンや一部の海竜だけと言われる鯨界の嫌われ者。伝説的な料理人が捌いて食したと言われるが、現在その技術を持つ者はほぼ居ないとされている。
「捌くは捌くでええんじゃが、毒の検査試薬を使うてから試食するにも危険すぎるっちゅうんで、人体実験したいてワケや。ついでにこれに関してはマルトと共同作業なところがあってな。虎鯨の毒の解毒薬の実験も兼ねてんねん」
「ってなると、医療班と料理班で五・六人の捕虜が欲しくて?メーヴォん所も一人じゃ足りねぇよな?」
「欲を言えば三・四人欲しい」
「十人ばかりの海軍の捕虜が必要ってか……んんー……」
では早々に海軍の船を襲撃出来るような場面が揃うはずもなく、頭を抱えた船長ラースは次に情報屋レヴを部屋に呼び出した。
「お前の情報網で探して欲しいんだが、この海域を航行する予定の海軍の船ってあるか?」
「手元に情報はありませんが、急ぎの使役便を出せば五日……いえ、三日後には」
「よし、頼んだぜ情報屋!後の果報は供物に祈って待ちな」
こうして船員の希望は早急に叶えられるのだから、死弾と言う船は船員に愛される船であった。
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