第四幕『理由』

「簡単に言えば、僕らは人体実験がしたいんだ」


 その口から出て来た言葉に、エトワールは眉根をしかめ、ラースは面白そうだとニヤリと笑った。


「人体実験ねぇ。そのココロは?」

「僕のところは、新しい武器の試し撃ちの的が欲しい。あんまり樽や木材を無駄撃ちの的にしたくはないのと、対人戦向けの武器だからやっぱり的は人間が良い」


 メーヴォの言う『僕のところ』とは、彼が指揮を取るクラーガ隊の事を指す。力自慢の大男五人と手先の器用な五人が、彼の下で砲台や銃砲の整備や、とある件で手に入れた書物から新しい技術の検証、武器、道具を作り出している技術者集団だ。彼らの努力の結果、その恩恵が次々に死弾に齎されている。


「時々試し打ちしてたっけなぁ」

「今、コールの為に宝石を使った魔法銃を試作している。それの威力を対人で試したい」

「それならあれだ、襲撃の時でいいんじゃねぇの?」

「いきなり実践投入は駄目だ。特に彼は長時間船外で活動出来ない。夜に船を襲撃したとして、もし銃に不具合が起きても、暗すぎたり襲撃中に再調整したり出来るもんじゃない」

「つまり、的にしてしっかり致命傷を与えられて、かつ精密射撃で急所を外せるのか、とか試したいと」

「出来れば動く相手が欲しいからな。止まっているだけの的なら、子供でも射抜ける」


 ごもっとも、とラースはメーヴォの意見に納得した。


「で、マルトは何の為の人体実験だって?」

「新薬の人体実験です。希望を言えば海軍兵士を捕虜に欲しいです。遠慮しなくて済みますから」

「そうね、お前は本当に海軍大ッ嫌いね!」


 船医マルトは海軍に並々ならぬ恨みを持っていて、普段大人しく争い事や殺戮を嫌うクセに、海軍相手となると一切の容赦を忘れるのがこの男だ。新薬の人体実験などと言えば、とんでもなく不味い薬や効くか分からない薬、更に毒薬の実験まで込みなのだろう、とラースは不敵な顔で思案する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る