第三幕『嘆願書』

 ヘァーックション!と声高らかなくしゃみが波間に消える。


「風邪ですか?」

「……いんや、誰かが噂してんだろ?カッコイイ俺の事をさ」


 船長室の椅子に座って、副船長エトワールの読み上げる嘆願書をぼんやりと聞いていた、ヴィカーリオ海賊団船長ラースは、突然のくしゃみにもめげずに持ち前の陽気さでもって笑って見せた。


「……なら、気にせずに次に進みますよ。次は捕虜が欲しいと言う嘆願書です」

「ほりょぉ?」


 海賊船員たちに、今後の海賊活動の上で何が欲しいか、と嘆願書を定期的に募ると、大体は賃金上乗であったり酒盛りの回数を増やせだのと言った下らないものばかりであるが、捕虜を希望するなど珍しい以外の何物でもない。同業船から情報を引き出したりする以外に、捕虜などそう必要になるものではない。


「希望を出しているのは、メーヴォさんとマルトさん、ジョンさんですね」

「何でまたその三人が……あぁー言ってても仕方ねぇや。ちょっと本人呼んで来いよ。直接話聞くわ」


 呼び出された砲撃長メーヴォ、船医マルト、料理長ジョンが船長室に顔を揃えた。


「捕虜が欲しいってのは何でなんだ?各人理由を教えてくれ」


 たまには船長らしく、と言う風にバロック調の豪華な細工の施された机に陣取ったラースが、三人を並べて少しだけ偉そうに言った。

 三人はチラチラと目配せして、まず口を開いたのは船長の片腕でもある砲撃長兼整備士長メーヴォだった。

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