第二幕『掌握』
海賊船でドラゴンを使役していると言う話なんぞ聞いた事がないし、魔法を使ったにしろ何にしろ超遠距離からマストを折るほどの砲撃が出来るだろうか。幻でも見たのではないかと信憑性が問われた。
「奴等は徹底的に証拠を残しません」
長い赤髪をゆるめに纏めた男が身を乗り出すようにして声を高らかに上げた。その声には確信を持った力強さがあった。
「商船を襲う際にも、船員は一人残らず殺害し、船は跡形なく沈めてしまいます。そこで略奪した宝石類は足の付かない形で売買されています。確定的な証言や証拠はありませんが、この一年の商船消失事件は、間違いなくヴィカーリオ海賊団の仕業です」
ヴィカーリオ海賊団。通称死弾とも呼ばれる海賊は、その存在は五・六年前には既に結成されていたと情報がある。しかしこれまで大した目撃情報や被害情報が上がって来る事はなかったが、この一年で急成長を見せたダークホースである。
「金獅子のように大雑把ではなく、また白魚のように無差別でもなく。計画された襲撃を、計画通りに遂行する海賊です。今までの海賊と違って一筋縄ではいかない連中が死弾海賊団です。今後、奴等の情報を徹底的に洗い出し、五大海賊の同行と共にその情報をフレイスブレイユ海軍とも共有すべきだと考えます」
そう締めたクリストフの言葉は、会議を円満に終わらせるだけの効力を十分に持ち合わせていた。彼の日頃の行いや人柄もそれを手伝い、海賊による商船襲撃によって貿易赤字が嵩む国益会議の場を終了させた。
「お疲れ様です」
「ありがとう、ヴィヤーダ君」
会議室から出て来たクリストフ提督を出迎えた部下の労いの言葉に、彼はにこりと柔和な笑みを浮かべた。
「死弾について進言が出来た。この場はそれだけで有意義だった」
「そうですか。私は海神に対しての取り締まり強化を進言して頂きたかったのですが」
「それはキミの私念によるものだ。あの場では通らない話だよ」
「やはりそうおっしゃいますか」
不機嫌そうにそう呟いた青年が、クリストフの足元に素早く自分の足を引っ掛けて、その進路を妨害した。避ける間も無く足を取られたクリストフは腕で体を支える事無く、顔面から一直線に床へと突っ伏した。
「……ありがとうございますっ」
痛みに震え、突っ伏したまま声を上げるクリストフには見向きもせず、ヴィヤーダ青年はズカズカと廊下を歩き進めた。その目にはハッキリと海賊への憎悪が滲んでいた。
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