第六幕『地下へ』
大広間と廊下を抜け、その先にあった調理場は兎に角デカかった。この屋敷に大勢の人間を迎え入れるだけの施設があると言う証拠だ。調理場を見ればその施設の大凡を知る事が出来ると言っていたジョンの言葉を思い出す。確かに巨大な釜は、今から火を入れればすぐにでも使えそうな程しっかりしているし、巨大な食料庫が併設されている辺り、最盛期には夜な夜なパーティーでも開かれていたかも知れない。まったく羨ましいこったなぁ。
隠し扉はその食料庫の片隅、ワインセラーの床にあった。木目に沿って作られ、一見してそこに扉があるとは分からない。鍵穴すらも木目の隙間にしか見えなかった。
「これは分かんねぇなぁ」
「此処しばらくの間で開けられた形跡は無いように見えるが……」
レヴの持つ鍵はそもそも形状が違っていた。床にある扉で蝶番が見えないからとメーヴォの爆薬も使えないと来た。
「大丈夫です、実はこんな事も出来る様になったんです」
顔を綻ばせるレヴが、再び影を操る。ぐにゃりと動き出した影がほんの僅かな扉の隙間に入り込んで、カチン、と鍵の開く音がして内側から扉が横に開き、地下に続く闇を湛えた階段が姿を現した。
「鍵開けが出来るなら、入り口の扉で火薬を使う事も無かったんだが……」
「それはほらーメーヴォの出番だって無くちゃ困るだろ?」
「無駄はなるべく省きたいんだが」
そう睨むなって。レヴも萎縮してるぜ?
「何はともあれ、先に進むぞ」
言ってメーヴォを先に行けと促す。左耳に居座る鉄鳥が意気揚々と光を発して、メーヴォが少しだけ嫌そうな顔をした。
「鉄鳥は便利な明かりじゃないんだぞ」
「いいじゃん、本人がやる気なんだしよ」
眉間に皺を寄せているメーヴォの事だから、きっと鉄鳥に文句を言っているに違いない。前衛は僕の性分じゃないんだぞ、とブツブツ文句を言いながらも、メーヴォは真っ暗な階段を降り始めた。
階段はそう長くなく、天井の低い地下通路に辿り着く。案の定真っ暗な廊下を鉄鳥の明かりを頼りに歩いて行くと、程なく扉が見えてきた。古い木製の扉は手を掛けただけで崩れ落ちそうだったが、意外に頑丈に出来ていた扉は重く、三人がかりでようやく開く事が出来た。この木材は良いやつだな、などとぼんやり思いつつ扉の先に目をやると、広がる光景に絶句した。
「……凄い。何て量の本だ」
メーヴォが思わずと言う具合に呟いた。その目の爛々と輝いている事。本の虫が感嘆するだけはある。扉の先には円筒状の部屋があり、その壁一面を埋め尽くす本が整然と並んでいた。俺などは数分居ただけで睡魔に襲われそうな恐ろしい部屋だが、メーヴォはここに住みたいとでも言うレベルの光景だ。
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