第七幕『お宝』

 部屋の中央には一枚の絵画がイーゼルに乗せられて鎮座している。真っ赤な絵の具と白の絵の具、僅かな黒の絵の具で描かれた何とも不気味な絵画だ。描かれているのは骸骨兵たちの行軍。白い骸骨が真っ赤な血煙の中、黒い闇の中に行軍していく様を描いた地獄絵図だ。


「気持ちワリ……メーヴォ、そっちの本はどうだ?面白そうなやつはあるか?」

「……お宝であるかと聞かれれば、それなりに値打ちのある物だとは答えておこう。個人的には興味はない」


 メーヴォの興味のない物の値打ちが分かるかと言われるとサッパリだ。


「この棚に並んでいるのは文学小説の原本だな」

「原本?」

「今は印刷技術が発達したから、写本や口伝で伝わる物語って言うのは早々にないが、その昔は作者が綴った物語を誰かが読んで伝えたり、写したりして伝えたのは分かるな?」


 そりゃ分かる。ん?その原本があるってつまり?


「この地下書庫は少なくとも四百年から前の代物である、と。そう言うことですよね、メーヴォさん」


 別の棚で本を調べていたレヴが声を上げた。その声が何処となく確信めいたものに聞こえて、思わず「何か思い当たるのか?」と聞き返していた。


「あの、おばあさまが人間界にいたのがそのくらい前の事なので」

「……魔族の年齢とか成長具合を人間と比較しようとすると混乱すんな……四百年とか、すげぇな」


 その頃と言えば伝説の大海賊アランが活躍した時代じゃねぇか。魔族凄い。で、結局歴史的価値のある本がたくさんあった、と。それだけだった訳か?


「ざっと見た限りはそう言う雰囲気だな。世界中の文学小説に夢馳せたお嬢様のコレクションと言った風だ。技術書らしい本は見当たらない。強いて言えば、持ち帰って何処かの街でオークションにでも出してやれば、当面の資金には困らないだろうがな」

「そんなに高くつくか?」

「……例えばこの本。長年乙女たちの間で語り継がれて来た伝説的な恋愛小説だ。僕の妹も大好きで読んでいたよ」


 メーヴォが手に取った分厚い書物。表紙のタイトルには薔薇姫とあり、頭に薔薇を咲かせる乙女の有名な話だ。


「この話が書かれたのはおよそ四百五十年ほど前と言われているが、写本や口伝はたくさんあったが、原本は見つかっていなかったんだ。それがコレだ」


 つまりつまり、俺ですら知っている有名小説の原本が此処にはごまんとあって、オークションにでもかけたらそれこそ熱狂的なファンや研究者に高値で売れるだろう、と。


「結構なお宝じゃねぇか!よぉし、そうと決まったらウチの連中で此処の本を根こそぎ持っていってやろうじゃねぇか」

「その中で技術書とか、何か良い本が見つかればいいですね!もうおばあさまもコチラには来ないでしょうし、有効活用、ですよね」


 お前もちゃっかりして来たと言うか、図々しくなって来たなレヴ。


「ところでレヴ。この絵についても、何も聞いていないのか?」


 言ったメーヴォがイーゼルの上の絵画に右手を乗せた、その瞬間。

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