第五幕『進化』

「で、例の物は何処にあるんだって?」

「それが……特に部屋の指定なんかはなくって」


 つまり手当たり次第か。いや、待てよ。


「レヴ。最近お前、どのくらい影を広げられるようになった?」

「……えぇと、暗がりが続いていて、影があれば百メートルくらいは」

「なら、この屋敷の中くらい探索はあっと言う間だな!」


 笑って言ってやれば、ああそうか、と納得したような顔でレヴは少し得意げに口元を綻ばせた。


 日の当たる場所に屈んだレヴが自分の足下の影に触れる。人の形を成していた影が震え、くしゃりと形を変え、まるで大きな手のひらが二つ、レヴの足下に生えたようにも見えた。影の手はその指を広げて暗がりの中に拡散して行った。


「南の海でも思ったが、彼の能力は凄いな」


 感嘆の声を上げるメーヴォがレヴに尊敬の眼差しを向けている。メーヴォが船に乗ってからこの十ヶ月。ヴィカーリオ海賊団は驚くほど順風満帆だった。船員たちはメーヴォにせっつかされるように各々の才能を開花させ、また成長して来た。レヴもここ最近の成長が目覚ましい要員の筆頭だ。今は良い風が吹いている。カモメの連れて来た良い風が吹く内に、一度アジトに戻るのも良いかも知れない。そう言えばもう一年近くあそこに立ち寄っていない。


「次の航路は決まりだな」

「お頭、屋敷の中の確認、終わりました」


 呟いた言葉がレヴの声に反響して消えた。


「よぉし!で、お宝は何処だって?」

「屋敷の中にめぼしい物はありませんでしたが、調理場から地下に続くと思われる隠し扉を見つけました」

「敵の姿は」

「ありません。罠らしい物も見当たりませんでした」


 本当に荒らされて、かつ放置された屋敷と言うところか。本題の隠し扉の先に何があるかも怪しいが、とにかく行ってみるしかないな。

 影を収めてふうっと一つ息を吐いたレヴが、意気揚々と調理場へと足を向ける。


「案内します」

「マルトやジョンたちを待たないのか?」

「何かあってくたばるような俺たちじゃないだろ?」

「……ふん」


 眼鏡のブリッジを押し上げたメーヴォがしたり顔で、歩き出したレヴに続いた。

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