第四幕『屋敷へ』

 風光明媚な丘の上、白壁が見事な豪奢なお屋敷。かつては使用人もその関係者も沢山此処で生活していたに違いない。時は過ぎ、主の手を離れた屋敷はあっと言う間に廃墟と化し、草木に飲み込まれていた。ただ元々しっかりした造りだった屋敷は倒壊する事無く、草木と融合して人を拒む空間を作り上げていた。


 そこに向かう門の前に俺とメーヴォとレヴの三人が立っていた。マルトは道具屋で買い込んだ荷物を置きに船に戻っていった。何かあったらどうするんだと言ってやったら、傷薬・解毒薬などの簡易救急セットを押し付けられた。仕事しろヤブ医者め!


「どうせ後でジョンも一緒に合流するだろうが」

「その前に何かあったらどうするんだよ」

「何かあって駄目になるようなタマか」


 メーヴォの嫌味の冴え渡る事。確かにそう簡単にこの魔弾のラースが行動不能になってたまるかってんだ。


 俺たちはレヴを先頭に草むらを進んだ。レヴの操る影が草を根元から倒して道を作ってくれるから歩きやすいし安全だ。万が一罠があっても感知して、排除してくれる。少し前までは影を隙間に入れてその奥を覗き見たりするだけだったのに、最近のレヴは自在に影を操る。成長に目覚しい物があるのは若さゆえか、何て考えるくらいには俺も船長として貫禄が付いたってところかな。レヴのおかげで無事に入り口に辿り着き、その扉に手を掛けた。


「……開かねぇ、よなぁ」


 案の定扉は堅く閉ざされている。念のため入り口の扉にレヴの持つ鍵を使わせてみるが、鍵穴に合わない。こうなってしまっては、海賊の俺たちですから遠慮はしませんぞ、と。


「メーヴォ、出番だぜ」

「何だ、蹴破るとかしないのか?」

「そこは。ほら、俺あんまり脚力に自信ないから」

「ワイヤーボウガンであっちこっち飛び回っているお前が言う台詞か」


 文句を言いながらもメーヴォが扉の蝶番に細工を仕掛ける。離れていろと指示されて扉の前から退くと、メーヴォはその自慢の真っ赤な鞭を振るった。火花が散ったと思った途端、中空に火花の道が走り蝶番までバチバチと音を立てた。ボムっ、と爆ぜる音がして蝶番が吹き飛ぶ。


「さっすがぁ!」


 蝶番の外れた扉をずらして中を伺うと、窓から入る光に埃が舞って輝いて見えるくらいには、中はしんと静まり返っていた。幽霊なり何なりが出迎えてくれそうな雰囲気の中、扉を完全に外して俺たちは中に入った。大理石の床に降り積もった埃の量から、確かに長い間人が立ち入った形跡は感じられない。

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