第十話『海賊と吸血鬼』
第一幕『提案』
「この海域の辺りを行くのなら、寄りたい港があるのですが……」
と言う情報屋レヴの珍しい相談に乗って、森海大陸の数少ない観光地でもある港町に立ち寄った。
観光地ともなれば、入船の監視は緩い。とは言え、昨今の俺たちは話題の人物なので、やはり港の監視員に呼び止められた。
「すまんが君たち、名前と職業を控えさせてもらっても?」
「へいへい、なんでやしょ。あたしらはしがない宝石商エルク=ヴァレンタインのヴァレンタイン商会ですが?」
「……エルク=ヴァレンタインって、本当か?」
あからさまに不審な目を向ける監視員に心当たりが付く。そりゃそうだ。この名前でとある海軍提督のお屋敷に堂々と忍び入ったんだからな。だから、こっちもあからさまに嫌な顔をしてやる。
「本当ですよぉ……って言うかアレでしょ?何処だかの提督のお屋敷に忍び込んだって話の。やめて下さいよ、あたしだって被害者なんですから!」
大仰に身振り手振りを交え、俺は真っ赤な嘘をでっち上げる。ゴソゴソとコートの内ポケットから昔から使っている偽物の『宝石商人の身分証明書』を取り出し、監視員に突きつけながら口を開く。
「あたしはもうこの仕事五年はしてるんですけどね、初めてですよこんな事は!先日ね、航行中に小さなスクーナーが助けてくれって信号弾を撃って来たから親切心で助けたんですよ。そしたらあの女……海賊だったんですよ!あたしらの船に乗り込んで来て、あっと言う間に船員をふん縛って、金目の物と提督から頂いた招待状を掻っ攫って行っちまったんですよ!命だけはって乞うてこうして生きてますがね、さあ港に辿り着いたら尋問だぁなんだで先日も三日以上海軍に拘束されたんですよ?んもぉーあったま来てるんですよコッチも!」
ヒートアップして見せれば監視員も俺の勢いに若干引き気味だ。よしよし。
「何が許せないってね……あの女海賊、手下たちにあたしの代理をさせた上に夫婦を演じてたって言うじゃないですか!この……あたしがっ!早く可愛い嫁さん貰いたいって願って止まないって言うのに!あぁーもう!思い出しただけで悔し涙が出るって話ですよ?」
分かりますかこの屈辱が!と詰め寄ってやれば、監視員の髭親父は分かったもういい!と降参した。
「あんたの無念は分かった!その証書も本物みたいだし、さっさと行ってくれ!」
そそくさと監視員たちは桟橋から立ち去っていった。
「嘘も方便だな、エルク様」
呆れた顔のメーヴォが嫌味っぽくその名前を呼ぶ。女海賊に襲われて名前を語られた哀れな宝石商人をでっち上げれば、大体の事に辻褄が合わせられる。俺の愛する女はエリーただ一人だ。
「さぁて、レヴの言うお屋敷ってのは何処にあるんだって?」
ヴァレンタイン商会もとい、魔弾のラース率いる、死弾の異名を持つヴィカーリオ海賊団は、大手を振って入港し、目的の街へと繰り出した。
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