第十九幕『適合者』
数冊の手記と頭蓋を持ち帰ったバラキア船長と、剣を持ち帰った僕たちはお互いの航海の無事を祈りながら、別々の航路へと分かれた。
「……なんぞ、そんな恨み辛みも聞こえへんわ。むしろ手に馴染んで、ええ鮪包丁やないか!」
鮪包丁?聞けば巨大な魚を捌くための専用の包丁の事らしい。
長らく放置されていたにも関わらず研ぎ立てのような輝きを見せる、翠鳥ほどの人物が魔剣と例えた剣を持って飄々としているあたり、ジョンの潜在能力の高さに感嘆するしかない。
『あるじ様、わたくしには聞こえます。オーストカプリコーノが共鳴し、喜んでいる声が聞こえます。ジョンシュー殿は、誠に素晴らしき料理人でありますな』
『……そうだな』
口にするものの命を尊ぶ料理人はそれだけで己の中の矛盾に打ち勝つ強さを持っている。純粋にその強さに憧れるし、尊敬する。
だから僕たちは、ジョンの教えに則って食事の前に「いただきますと」と言って、食後にこう言うんだ。
「ごちそうさまでした」と。
そう言えば、無事に金曜のカレー日が執り行われ、僕は美味しいカレーとナンに有りつけた事を、此処に記しておこうと思う。
おわり
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