第二幕『情報屋』

 情報屋レヴ。少年の姿をした魔族の端くれは、気配に乏しく、普通の人間には知覚しにくいと言う不思議な体質を持っている。人間界に来て誰にも気付かれず途方にくれているところを拾ってやった。知覚されない事を逆手に取って情報収集をさせている。実は引っ込み思案で気の弱いレヴは、滅多な事で航路に口を出したり、船長である俺に希望を述べる事すらしない。それが今回珍しく声を上げたのだから相当な何かが待っているに違いない。


「実は、魔界の祖母に手紙を貰って……」


 そう語り出したレヴに、テーブルに着いた面子が注目する。船長である俺ラースと、その右腕メーヴォ。船医マルトがガーリックピラフを口にしながら話を聞いた。


 レヴの祖母はかつて修行の一環として人間界で生活していたらしい。平凡な魔族の少女は人間界で経験を積み、人間の魂から宝石を精製する技術で財を成し、魔界に戻ってから名家の男と結婚した。結婚当時からこちらずっと苦労して来た祖母は、能力の低いレヴにとても優しかったと言う。


「祖母の薦めで人間界に来たところでお頭に拾ってもらえて、影を操る力も強くなって来て、みんなの役に立ててるって手紙を送ったんです。それの返事に、この街に祖母がかつて暮らした屋敷があるから、訪れてみると良いって鍵を送ってきてくれたんです」


 魔界との文通なんてどうやっているんだと疑問に思ったが、今は続きの話を聞こう。

 テーブルの上に置かれた鍵は若干くすんでいるが、未だに金の輝きを匂わせ相当な代物であると窺い知れる。


「なるほどなぁ。しかし、それだけって感じじゃねぇよなぁ」


 ニヤニヤしてレヴを問い詰めれば、長い前髪の下でレヴは顔を赤らめた。さあさあ話して御覧なさい。


「あの……僕は影を操る力がありますけど、何か使役している訳じゃないですし、えと……メーヴォさんと鉄鳥さんが羨ましくって、そう言う話をおばあさまにしたら、役に立つ子がいるからって」


 モゴモゴ、と語尾が消え入ってしまった。なるほどなぁ。横のメーヴォが鉄鳥を突いているから、どうせ鉄鳥が喜んでいるのを窘めているに違いない。


「で、そのお屋敷ってのは何処なんだっけ?」

「アレです」


 言ってレヴが指差したのは、酒場の窓の外。そっちに視線を移した面々が神妙な顔をする。そこにあったのは、海に突き出た断崖絶壁の丘の上に聳える城の様にも見える豪邸だった。


「マジで?」

「……はい」


 きっと俺たちはみな揃って、レヴの事を見直していたに違いない。そうか……お前実は良いとこのお坊ちゃんなんだ。

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