第九幕『強襲』

「この地から立ち去れ……」



 囁く声の聞こえたその藪の中から小さな瞳がギロリと此方を睨んだ。


「蝕のひとみ……」


 確かにそう聞こえた。確かにその草木の塊の中に居る人物は、僕を見ていた。


「きぃぃええええ!」


 その小ささに見合っただけの素早さで、藪の塊が奇声を発しながらジグザグに走ってくる。当たりが付けれない!咄嗟にヴィーボスカラートを握る手が動かなかった。


「メーヴォ!」


 視界が揺れて、岩場に尻餅をついた。ラースが僕を突き飛ばした。藪から生えた手の先が光って、ラースの額に押し付けられる。


「貴様っ!」


 バラキアの抜刀した剣が閃くも、素早く藪の塊はラースを跳び越して、球が跳ねる様に森の中へと姿を消してしまった。船長!と叫んだジョンが咄嗟に崩れ落ちるラースを支えて、岩場に頭を打つ事は免れた。が、ラースがピクリとも動かなくなってしまった。


「ラース!おい、しっかりしろ!」


 揺すったところで何の反応もなく、グッタリと弛緩した体が腕にずっしりと重い。


「クソっ!さっきの光……ラースに何をした!」


『あぁ、太陽を喰らう忌まわしき瞳の悪魔。この地に入り込むとは汚らわしい』


 しわがれた声が風の魔法によって拡散されて辺り一体に響き渡る。


 その声を聞きながら、コートの内側の隠しポケットに仕舞っておいた気付け薬を取り出して、ラースの口を抉じ開けて流し込む。ごほり、と吐き出したまま、ラースはその後の反応を示さない。この気付け薬はとんでもなく苦い上に舌が痺れるほど刺激が走ると言うのに、それでも起きないのは可変しい。

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