第十二幕『彼の話』
「エリーは、何て言うか、洋上に吹く突風みたいな女だった」
そこに吹いている事は分かるのに、風を掴もうと進路を変えるとすうっと風が逃げるような。見えているけれど掴めない、強い風のような女だった。とラースは何処か遠くを眺めるように目を細めた。
「海に吹く風は孤高で美しい物だって信じてたんだけどなぁ……エリーが海から上がるかもしれないって噂を聞いてさ。居てもたっても居られなくなって、話を聞きたくて停泊してるって港に追っかけてったんだ」
エリーが結婚して海から上がるかもしれない。エリーが汚されてしまう。そう思うと心臓が破裂しそうだった。
エリーが泊まっていると聞いた宿の部屋に行って、扉を叩いて、返事に彼女が名を呼んだ。
嬉しそうな声で、知らない男の名前を呼んだ。
『ケイン、もう来たの?早かったわね』
言葉が扉の向こう側から響き、足音が近付いて、扉が開いた。
「思わず刺してたわ」
その一言に、背筋が震えた。
恍惚とした表情のラースの目の奥に、キラキラとした光を飲み込む真っ黒な闇が見えた。ああ、何て心地良さそうな顔をしているんだろう。
一撃目で急所を外してしまい、驚いた彼女の反撃に右の額を切りつけられた。痛みは感じず、ただ鬼気迫る女の顔に欲情した。恋慕と愛情と、憎悪と殺意が混ぜこぜになった。
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