第十三幕『共鳴』

「気が付いたらエリーは血の海に浮かんでた。エリーが穢れてしまった、って思ったんだけど、実際そんな事なくて、真っ赤に染まった彼女は凄く綺麗だった」

「はぁ……いいな、よく分かる」


 自分の顔が緩んでいる。だらしない顔をしているだろうな。僕の方を見たラースが、子供のように破顔した。


「分かってくれる?彼女の死体が凄く綺麗だったの!」

「分かるに決まってるだろ。僕だって、彼女の吹き飛ばした首から吹き出した血がどれ程美しかったか、言い表せない」


 ああ、きっと僕も今ラースと同じような、爛々とした目をしているんだろう。


「それから、どうしたんだ?」

「それからな、とりあえずデコの傷はエリーが持ってたバンダナで止血してさ、エリーを海まで運んだんだ。デカイ鍋も調達してさ、彼女の髪を切り落として、死体をバラバラにして、鍋の中にぶち込んで煮詰めたんだ」

「ああ、その話はクラーガ隊の奴らから少し聞いたよ。煮込んだのは首だけじゃなかったのか?」

「全部だ。全部一晩掛けて煮込んだ」


 煮融けた肉の中から綺麗になった頭蓋骨を引き上げれば、いつまでも変わらない美しい彼女が手元に残った。手元にエリーを寄せて、その頬骨から顎骨までのラインを愛しそうに撫でるラースの指先が艶かしい。残りの骨も大方取り出して、彼女が着ていたコートで包んで持ち帰ったと言う。


「その骨はどうしたんだ?」

「アジトにエリーの墓を作った。内緒だぜ?」

「何だ、結構律儀なんだな」


 うるせぇよ、と笑ったラースの顔に、もう疲れたような影は見えなかった。

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