第八幕『説得』

 手に入れた宝の鍵は、本当に俺の手にあるのだろうか、と。思わず口元が緩む。


「この間、エリーを汚されたと見境の無くなったお前を見て、話をしたいと思っただけだ」


 その時僕がどんな顔をしていただろうか。自分でも分からない。ただ、随分久しぶりに顔の力が抜けていた事は確かだ。


「……話ねぇ」

「お前の武勇伝と、僕の武勇伝。此処だけの話を腹を割って話し合ってみるのも良いだろう?」


 誰にも理解は出来ないだろう。僕らの抱える深い闇は、誰にも理解出来ない。ただ、少しだけ僕らは似た闇を抱えている。闇を取り払うとか肩代わりするなんて事は言わない。ただ少しでも軽くなればと思う。二人で交わす酒を美味くする肴にする事が出来たら、この寝不足も少しは解消するんだろうか。


「お前に深酒をしてもらっても困るし、最近は吸う量が減ってるみたいだが、例の魔薬も、今後すっぱり止めてもらいたい」


 体温が欲しいのだろう。冷たく美しいままの女より、醜くも熱のある女が欲しいと、本能的に熱に飢えて女遊びをするし、幻を追いかけて体に良くないモノを吸ったり深酒もする。勝手に寿命を短くしてもらっては困るのだ。


「言っておくが、お前の為じゃない。お前が僕を宝の鍵だと言って必要とするように、僕が目指す宝に辿り着く為に、お前と言う船が必要だからこうしているんだ」

「……言ってくれるねぇ。だったらお前の武勇伝とやら、話してみろよ」

「なら、冷めて不味くなる前に食事だ」


 お前は本当に一々うるせぇな、メーヴォママ!と冗談を言うラースの顔に少しだけ明るい光が射した。

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