第九幕『食事』

 パニーニもサンドイッチもどっちも食べたいと言うラースの要望で半分ずつ分けて食べた。実験中だった二重壁の保温ボトルに入れておいたスープと飲み物は仄かに温かく、ラースの顔が程よく緩んだ。


「あぁー美味い飯はすげぇなぁ……悩むのとか面倒くさくなるから怖いわぁ」

「正直な話、僕は今後ジョンの作る食事だけ食べて生きていたい」

「そこまで言うか」

「だってそうだろう?」

「うん、間違ってねぇわぁ。時々アイツ毒に当たって厨房立てねぇからって部下が作ると、やっぱり味が違うんだよな」

「そうなんだよ。ジョンが作ってないって分かる」


 モグモグと食事を頬張りながら、温かい食事にいつものようにラースが笑うのに少しだけ安心する。


「なあ、ラース。エリーってどんな人だったんだ?」


 突然振った話題に、ラースが目を丸くした。何だよ突然、と言いたげな顔に深追いはせず、ならばと話題を逸らす。


「それとも、僕の初恋の女の事から話そうか?」


 自分の話はまだ気が乗らないと言う顔のラースが、どうぞどうぞ、と手振りで話を促す。一生涯誰かに話す事はないと思っていた話を、初めて自分を必要だと言った男に話す。


「彼女は生真面目な女だった。家が近所で、母の工房に通っていた。母は被服系の工房を持っていてね。腕の良い裁縫士だった」


 幼い頃から親に連れられて母の工房に通っていた。十三になる頃には立派に工房で働いていた真面目な女だった。母に習い裁縫士を目指していた妹とも仲が良く、妹と同様に護らなくては、と幼いながらに僕は恋心を抱いてた。

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