第七幕『一歩』
ラースが起きたのはすっかり日も傾き出した夕方。クラーガ隊を先に船に帰らせ、僕は読書をしながらラースが起きるのを待っていた。ボサボサの髪を掻き毟って、不快そうな顔でラースは起き上がった。
「おはよう。良く眠れたか」
「……ああ、最悪だな」
「それは結構」
しかめっ面で起きたラースに、水を注いだコップを手渡す。一息に飲み干して、酷くやつれた顔のラースが苦々しく笑う。
「二日酔いか?」
「あー……いや、大丈夫だ」
「食事をする気はあるか?」
苦笑して物による、と言うので、もったいぶった感じにそれをテーブルの上に広げた。
強面の料理長ジョンが作ってくれた鯨ベーコンとチーズのパニーニと、サーモンやレタスの具沢山のサンドイッチ。クラムチャウダーにカフェオレを並べれば、けろりとした顔で美味そうだな!とラースが喜んで椅子に座った。美味い食事は偉大だ。
「ついでに、少し前に商船を襲った時に、年代物のワインをくすねておいた。肴に削りチーズを貰って来てあるから、ゆっくり晩酌でもどうだ?」
「至れり尽くせりじゃねぇか。で、その腹の内は?」
寝不足の窪んだ眼孔からギラリと光った視線が、隙を見せない壁となって僕の一歩を阻んだ。そうやって警戒される事は分かっていた。いくら僕が歩み寄ろうと、お前はまだ何処かで僕にも猜疑心を持っているんだろう。
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