第六幕『共感』

 女遊びに走って行くラースを見送り、僕は静かに宿で検証実験に打ち込んだ。クラーガ隊の数名が助手として宿に合流してからは、夜通しの検証実験が成された。その成果もあって、質の良い宝石を媒介にする事で魔力の消費を抑え、最小限の力で大きな力を得る事が可能であると証明出来た。今後、何処かで大きな宝石を手に入れる事が出来れば、強力な武器や便利な道具を作り出せるかもしれない。昇る朝日を見ながら、クラーガ隊の部下たちと手を取って喜んだ。


 仮眠から明けた昼過ぎ。宿に戻って来たラースから安い香水の臭いがして眉を顰める。娼婦宿には一度連れ込まれたが、あそこは高級を謳うだけあって鼻に付く匂いは無かったが、今日のラースは格段に臭い。何かあったな、と思うも口にはしなかった。


「ラース、今後の話をしたいんだが、休んでからの方が良いか?」

「……あ、あぁーそうね。ちょっと寝るわ。うん」


 何処か気の抜けた返事を落として、ラースは部屋に入って行った。僕が寝ていたベッドに入れ替わるように入って、すぐに寝息を立て始めたのだから、夕べは一睡もせずに女と遊んでいたと言う事か。


 しかし初めて目の当たりにした一連のラースの様相に、僕はクラーガ隊の面々を呼んで話を聞いた。定期的に女遊びに大枚を費やす事があると情報を貰った。これはいつもの事だが、時折数日船に戻らず、娼婦宿に篭る事もあるらしい。面倒な事ではあるが、ガス抜きなのだろうと船員たちは目を瞑っているらしい。どうせ数日で戻って来るから、その間に出航の準備をして待てばいいと、呆気らかんとしていた。


 生返事を返しつつ、僕は何となくその理由に心当たりがあり、少し溜息を落とした。似た者同士の同属嫌悪とは滑稽だ。

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