第五幕『出航、沖合いにて』
翌日には宿の主人から酒場での銃撃騒動の噂を聞き、早々に港を発った方が良いと出港を数日早めた。技術書の検証実験もままならぬまま、僕もクラーガ隊と共に物資の買い付けに走り回った。その日の内に補給や略奪物資の転売を終え、滞在三日目を待たずにエリザベート号は港を離れた。
「次の港では絶対に問題を起こさないで下さいよ?分かりましたか?」
急な予定変更に副船長のエトワールはカンカンに怒っていた。僕まで一緒に正座させられているのは何かおかしい。
出航から数日。船は既に遠く離れた海域へ。その海域では捕鯨に数日を費やした。一頭狩るとそれの解体に数日を要するのが海上での捕鯨だ。
予め用意していた筏が組まれ、鯨の体を解体する。皮はなめされて防具や靴の修繕に使う。骨は削り出して武器や銛の先端にも使用するし、油を絞るのにも使う。鯨髭や鯨油、肉は内臓に至るまで、鯨には捨てるところが無い。
鯨が解体されると調理場は火絶えなくなり、料理長ジョン率いる調理班による保存食作りが昼夜を問わず続けられる。彼らの作る鯨肉のベーコンなどは、通常のベーコンが霞むほどに美味い。それを使ったパスタは癖になる味をしていた。
大よその鯨解体が終わる頃、船は次の港に寄港していた。腐らせてしまう恐れのある分の鯨肉や、資材として確保し余った分の骨や皮を売る。そうして得た金で、再び酒場で飲み明かすのだから、海賊とは本当に学習しない生き物たちだ。
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