第十二幕『動揺』

「おいメーヴォ、流石完璧主義だな!一瞬誰か分かんなかったぜ」

「……チッ」


 嫌そうに顔を歪めた美女が渾身の舌打ちをする。


「恥ずかしがり屋ねぇ。彼と夫婦役を演じるって言うのに」

「心の準備って物があるだろうが……」


 蚊の鳴くような声を上げるメーヴォが、顔を真っ赤にしている事実に俺の中が酷くザワつく。


「お前眼鏡は?」

「あれは伊達だ。例の……幼馴染の記念品だ」


 あぁー記念品ね、把握。


 緑の長い髪に、コサージュで飾った鉄鳥が定位置に収まっている。きゅっと絞られたウエストとそこから広がるヒップラインが魅惑的だ。目のパッチリした、頬を染める薄化粧の美女にしか見えない。


「すげぇくびれじゃん。どうやってんのそれ」

「ウエストの太さは変えていない。肩幅に合わせて胸と尻に布を入れているだけだ」

「へぇー!オカマ謎技術スゲェ」

「オカマとか言うんじゃないわよ!ほら、見せ物じゃないんだから出てきなさい!」


 プンスカと怒るダニエル船医に背を押され、俺とディオニージの旦那が医務室から追い出された。


「着替えてすぐに行く」

「あ、あーゆっくりでも良いぜ?」


 扉の隙間から聞こえたメーヴォの声に返事をして、俺は今見た事を反芻していた。美女に目を惹かれる事は多々あるが、魂に来る女は久々に見た。女じゃねぇけど。


「品評会が楽しみになったなぁ」


 裏があるのかないのか、旦那のカラリとした言葉に、ですね、と適当な相槌を打つ事しか出来なかった。

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