第十三幕『武器』

 金獅子の船から帰って来たラースとメーヴォさんが微妙な距離感で戻って来たから、見合いの後か!と馬鹿にしたら声を揃えて違う!と返事をされてアホかと更に言葉を投げつけた。


 そもそも何故金獅子の船に行くなら私を誘わなかったのだ。


「エトワール連れてくと面倒くさそうだったんだもん」

「面倒くさいとかそう言う問題で人を省くんじゃありません」

「あ、お前の顔見て思い出した。メーヴォ、お前に見せたい物があったんだ」

「話を逸らさないで欲しいんですが、そもそもまだ見せてなかったのですか、もしかしなくても!」


 私の抗議の声を聞かず、ブーツではなく何故か女物のパンプスを履いて、いつもより一段と背の低いメーヴォさんを捕まえてラースが例の腕輪を見せていた。


「……え、なんだって?懐かしい?」


 メーヴォさんが頭に着けている己の使い魔に問い返した。その手に腕輪を取り、ためつすがめつ眺め始めた。


「随分な物を金獅子の副船長はくれたものだな」


 かしゃんと右腕に腕輪を着けたメーヴォさんが腕を伸ばし、その言葉を口にする。


「イベリーゴ(解放)」


 途端に腕輪だった物に亀裂が入り、それが分解して腕に沿って再構築されていく。手の平にトリガーを有し、右腕全体を覆うほどに巨大な形をしたそれは、透明な羅針盤を掲げた銃に見えた。


「フールモサジターリオ、と言う名の超遠距離射撃用の銃だ。コイツはかつて蝕の民が作った武器らしい。鉄鳥が言ってる」


 魔法の銃。それも何だかとんでもない力を有した物に違いない。神々しいそれは特別な代物である証だ。


「すげぇじゃねぇか!本当にこれ貰っちまっていいのかよ」

「あの技術書がないと意味がないとアデライド副船長殿はおっしゃっていましたよ」

「……でしょうね。これ壊れてますから」


 私とラースが同時に、え?と声を上げた。


「スコープが全く反応しない。ついでにテイルも死んでる。このままじゃただ大きいだけの装飾品と変わりない」

「マジかよ」

「スタンピタ(封印)」


 再び何かの古い言葉をメーヴォさんが口にすると、巨大な砲身を持ったそれは腕輪に戻った。


「ついでにコレ、使用者の精神力とか魔力を使う代物だ。今展開しただけでもう手が痺れてるよ」


 腕輪を外したメーヴォが手を振りながらそれをラースに渡す。そっかぁ、と苦笑したラースがそれを私に放って寄越した。


「残念だったなぁせぇっかく愛しのアデライド副船長から頂いた物なのに、使えないってよ」


 ニヤニヤと笑う船長の顔をグーで殴ってやろうと構えたところで、メーヴォさんのサラリとした一言に、その拳が別の方向に向かった。


「直せるぞ、それ」


 私は握った拳を天高く突き上げていた。


「ただし、それこそ例の赤石が必要だ。今回の作戦は絶対に成功させないといけないな」


 いつものようにヒールの音を高らかに鳴らせてメーヴォさんが船室に戻って行くの見送り、私はラースにニヤリと笑って見せた。


「ヘマしないで下さいよ絶対に」

「へいへい……」


つづく

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