第九幕『試着』
採寸を取られる間にも悠長に話をしているダニエルの、少し間延びした女言葉には緊張感がなく、この美丈夫からその言葉が出て来る事にも差違がありすぎて、思わずこっちの気も緩んでしまう。
「僕らの船長がお役に立てたようで、何よりです」
「役に立ったなんてモンじゃないわよ。前回だって、例の屋敷に正面から突破していく構えだったのよ。ホント、あの時小鳥ちゃんを連れたラース船長が来てくれて助かったわ」
小鳥ちゃん、と言うのは鉄鳥の事だろう。いやいやそれほどでも……と呟く声が聞こえる。お前は誉められてない。
「はい、オッケー。じゃあ次はこっちのパンプス、色々試してみてくれる?」
胸囲や腰回りなどのサイズを測られ、シャツを着たところで何足かのパンプスを並べられた。想定していた事なので驚きはしなかったが、やはり何でこんなに女物が?と言う疑問ばかり僕の中に沈殿していった。しかもこんなに多彩にサイズまである……謎だ。
「これが丁度いいですね」
「あら、この青のパンプス、綺麗でしょ。私も気に入ってるのよ」
気に入っている、と言う事は、やはり彼は何らかの理由でコレを蒐集しているのだ。
「……アナタが履くんですか?」
「履きたいけど、残念な事にサイズが合わなくてね。見て楽しむだけなの」
ああ、やっぱり、そうですよね?
「良かったわぁ、いい人に譲る事か出来て嬉しいわ」
え、お借りするだけじゃないのか。ああ、でも脱出と共に出航だから……って、別に前みたいに待ち合わせをすれば返せるだろ。
「いつか、お返しします」
「あら、律儀ねぇ。さぁて、じゃあ次はカツラよ」
両手に長い髪のカツラを持ってにこやかに笑うダニエルは、ある意味悪魔のようにも見えた。何て頼りがいのある悪魔だ……。女装する事に対して未だ冗談半分だったか、僕もそろそろ腹を括ろう。
僕の髪色に似た緑色の長い髪のカツラを付ける。肩から流れる髪に物珍しさと新鮮さで思わず顔に出たんだろう。
「あら、可愛いわね!」
「世辞でも嬉しいです」
「瞳が大きいし、化粧映えしそう」
そう言うものなのだろうか。化粧で女は化けるというが、男がどう化けられるものなのか、いささか不思議だ。
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