第八幕『金獅子海賊団船医』

 夕方から翌朝までたっぷり眠って眼精疲労を回復させ、いつものように身なりを整え、ラースを伴って金獅子海賊団の船を訪れた。僕はこの船を見るのは二度目で、海神の戦艦に負けじ劣らずの帆船に改めて息を呑んだ。


「よう!よく来たな」


 相変わらずにっかりと笑った金獅子ことディオニージ船長の大柄さに気圧されつつ、その紹介で船医のダニエル氏と対面した。線が細くシュッと縦に長い男。褐色の肌の色から、ダークエルフかその辺りの人外種のように見える。短く刈り込んだ髪は日に透けて銀色に輝いている。


「よろしくね」


 見るからに男の顔なのに、化粧をしたその顔は小綺麗で、人当たりの良い笑顔で握手を求められ、それに答える。


「確かに小柄なのね。そのヒールでよく海上生活が送れるわ。感心しちゃう」


 独特の女言葉に、確かにソッチの人間なのかと納得しつつ、よろしく、とだけ答える。しかし金獅子の船員にしろラースにしろ、海賊たちは皆長身で若干腹立たしい。


「さぁて、採寸とかしたいから、こっち来て貰って良いかしら?」

「構わない。色々と指導して貰うと思うが、よろしく頼む」

「そんなに畏まらなくっても良いわよ。ダニエルって呼んで」


 笑うダニエルは、どうしてかコチラの緊張や警戒を緩める。これがこの船の船医を勤めているから不思議だ。


「俺は金獅子の旦那と話してるから、いってらっしゃーい」


 ニヤニヤと笑いながら見送ってくれたラースに中指を立てつつ、僕はダニエルと共に金獅子の船の医務室へと移動した。通された医務室には既に豪華なドレスが所狭しと並んでいて、何故この船にこれだけの物があるのか聞きたかったが、ぐっと口を噤んだ。


「採寸させてね」


 言ってダニエルが巻尺を構えて来たので、服のままで?と確認を取ると……。


「脱いでくれた方が嬉しいわね、いろんな意味で」


 ジワッと嫌な雰囲気を感じつつ、格上の海賊船員相手に逆らう気にもなれずシャツを脱いだ。僕の背中を見たダニエルが小さく、あら?と呟いたが、それ以上何も言わなかった。


「今回の作戦に乗ってくれて感謝してるわ。あの脳筋馬鹿はまどろっこしい事が嫌いで、何事も正面突破しか能がなくてねぇ。流石に海軍提督が主催する社交会でしょ?だったらアンタ一人で行って来なって話していたところだったのよぉ」

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