第二幕『雑貨店にて』

 で、そんな彼に買い物を依頼されて、私は雑貨屋に向かっている。その後ろに面倒くさそうな顔をした船長ラースを伴って。船から降りて久しい我々は陸地で干からびようとしていた。


「なあエトワールぅ……今日何日だっけ」

「それまた答えなくてはいけないんです?」


 この外出中、何度目かのラースの質問に雑貨店の扉をくぐりながら逆に聞き返す。ある目的のために陸に上がって三日。海から上がった海賊などと、シャレにも笑えない状況に逸早く根を上げたのは、作戦指揮を請け負う船長その人。やる事がないのは船の上でも同じだが、長年船上生活が続いていた彼は必要最低限の理由でしか陸に上がらない。


 予定より早く目的の土地に着いた。十日くらいならたまには陸で生活するか、といつものように偽名を使って港に長期停泊許可をもらい、更に船員も交代で船から降りて生活が出来るようにと港近くに大きめのコテージも借りた。そこまでやっておいて、彼は二日目には飽きたと言い出したのだ。無責任にも程がある。


 結局コテージには例の技術者メーヴォさんを中心とした砲撃班クラーガ隊の面々が寝泊まりして、ある一件で手にした古い技術書の実験をしている。揺れる船の中では出来ない精密で繊細な実験に、大ざっぱでがさつな船長はむしろ立ち入りを禁止させている始末だ。少しでも技術書の解析と、使える技術の解析をすると、メーヴォさんが意気込んでいた。毎日の経過報告の際に買い出しを頼まれた。どうせ船の調理場で使う火打ち石が無くなったと買い物を予定していたから丁度良かった。いくつかの薬剤の買い出しのメモを受け取って、私たちは現在に至ると言うワケだ。

 例の技術書で思い出したが、金獅子のところの副船長はとても美しい人だった。尖った耳のレッサーエルフ……いや、ホワイトエルフで、中性的な顔立ちの柔らかい笑顔の似合う美人だった。そう、そこにいる方のような……?


「あれ、なあエトワール。あれって金獅子の」


 ラースが口を開いた途端、彼の人が顔を歪めて誰かの手を払った。


「私も暇じゃないんです」

「いいじゃねぇかよ、少しくらい付き合ってくれてもさぁ」

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