第三幕『ひとつめの夢のおわり』

 ワルツを踊るようにエリーを抱きしめてステップを踏む足が、突然もつれた。


 いや、無くなったんだ。俺の左足が、ボム、と言う音と共に無くなってしまった。


 もちろん多々良を踏む足も無いんだから、俺はエリーを抱いたまま派手にすっ転んだ。同時にまたボム、と音がして、今度は右足の感覚も無くなってしまった。カシャーンと硝子の割れるような涼しげな音をたててエリーが砕け散ってしまった。俺の手元に残ったのは、エリーの頭蓋骨だけ。


 一体何が、と思った途端。俺の後ろから男が一人、俺を追い抜いて歩いていく。腕で上半身を支えて見上げた後ろ姿を知っている。やたらと高いヒールのブーツ。紺のコート、紺の帽子。航海士のようなシルエットの男は、ゆっくりと振り返って手の赤い鞭を振るった。ボボム、と音がして体を支えていた腕が無くなった。四肢を失った俺はただゴロリと芋虫みたいに転がるしかなかった。


 畜生、お前も俺の船が目当てで、俺の首を狙っていたって訳かメーヴォ!


 ガシャンと派手な音を立ててエリーの頭蓋骨が爆散した瞬間に、腹の底から怒りがこみ上げてきた。その喉を噛みきって道連れにしてやる。フーッと猫の威嚇のように睨み付けた先で、男が泣いていた。


 メーヴォが泣いてる。泣きながら俺に攻撃している。


 何だよ。何だよそりゃ!

 お前、このラース=フェルディナンド=ヴィカーリオを殺るってんだぞ?何で泣いてんだよメーヴォ!知らねぇだろうが、お前人を殺る時すげぇいい顔してんだぜ?俺な、殺るって時のお前の顔すげぇ好きなんだぜ?なのに、何で泣いてんだよ!この俺を殺るって時に、何で泣いてんだよ!笑えって!いつもみたいに、いつも人を殺る時みたいに、楽しそうに笑えって!何で、笑わないんだよ、馬鹿野郎。俺はお前に笑って殺されるなら本望だってのによ。


 溢れる涙を拭おうともせず、はらはらと涙を流すお前何てちっとも想像出来ない。


 そりゃそうだ。


 これは、セイレーンの悪夢なんだから。


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