第二幕『ひとつのめの夢』
何度か味わった事のある不快感を伴った眠り。半分覚醒しているような、眠りに落ちる手前みたいなフワフワした感覚。ああ、セイレーンの歌を聴いてしまったんだな、と頭を抱えたくなる。酒を飲み過ぎて二日酔いになりながら後悔するのに似ている。手慣れた仕事を一手ミスした悔しさ。
けれどこうなってしまった以上はこの悪夢を一頻り見終わるまで耐えるしかない。セイレーンは人の命までは奪わない。ただ自分たちが守る宝に手を出した不届き者にキツい罰を与えるだけだ。トラウマを抉る、精神的な罰を。
不意に自分を追い越して走っていく女の後ろ姿にハッとした。エリー!声が上げられるはずもないが、彼女の名を呼ぶ。
いつもならココで、エリーは俺の声を聞かずに走り去る……のだが、今日の悪夢は違った。
笑って振り返った彼女が、ラース、と俺を呼ぶ。
いつか聞いた女の声が、嬉しそうに笑う女の声が響く。キャプテン・ラース。俺を呼ぶ声がする。愛しい声が響く。笑う女が腕を広げている。いつもなら俺を置いて行ってしまう女がそこに立っている。笑みを湛えて待っている。俺を、俺を待っている!
走った。ただ彼女を抱きしめた。ああ、エリー。愛しているよ。美しい君。優しい微笑み、崇高な精神、静謐なその佇まい。全てが美しい、愛しいエリー。その体を腕に収めて、俺は彼女をただ抱きしめる。温もりはない。だって俺か殺してしまったのだから。美しいエリー。骸骨になってもお前は美しい。俺が未来永劫、お前を愛し続けるから安心してくれ。
美しいエリー。俺のエリー。俺の全て。
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