第十五幕『報酬』
「おい、アデライド。例のヤツを渡してくれ」
「はい」
名を呼ばれた副船長と思わしき線の細い中性的な雰囲気の男が、見覚えのあるそれを手にしていた。
「メーヴォ=クラーガ、君の武器を偽者たちが所持しているのを回収しました。ヤツらには過ぎた品です」
差し出された深紅の鞭は確かに僕のヴィーボスカラートだった。
「……あ、ありがとうございます!」
柄をぎゅっと握って、確かなその感触に胸が高鳴った。
「あとは、此方です、ラース船長」
金獅子の副船長が、ラースに分厚い装丁の本を一冊手渡した。それをパラパラっと捲って中身を確認すると、ラースはニヤリと笑って「ほらよ」と本をコチラへ投げた。馬鹿か!僕は慌ててそれを受け取った。ずしりとした手の中に納まった本は随分古い物らしいが、これまたどうしてか手に馴染んだ。
「確かに、頂戴します」
恭しく礼をしたラースに、金獅子副船長は同じく一礼して金獅子船長の後ろに下がった。
「ヴィカーリオ海賊団、噂に違わぬ曲者ばかりってところだな。丁度良いし、お前らウチの船の下に着かねぇか?」
ああ、やはり東洋のバンブーのような男だ。御託はいい、ウチに来いと。ただ彼の勧誘は単純明快だ。
「いやぁ、天下の金獅子になんて、恐れ多くてなぁ」
へらっと笑って回答をコチラに振る辺りは、やはりラースには小物感が付きまとうが、それが彼の処世術だ。だから、ココで僕がこう言う訳だ。
「僕たちには到達すべき宝への航路がある。あなたの所では、その航路は取れない。獅子の風とは相容れない」
次に宝の前で見える時は敵同士だ、と。宣戦布告にも似た殺気と共に金獅子を視線で射抜く。そうだ、この男の横に居たい訳ではない。どちらかと言えば、この男は屈服させたい、この男たちを絶望させたい。
僕の視線を物ともせず、むしろ良い餌を見つけたと言う顔の金獅子が、ガハハと笑った。
「いいねぇ、いいねぇ。そう言うのがロマンだよな!チビ助の割りに肝が据わってら!」
言って金獅子は僕の左耳にかかっている鉄鳥をじっと見た。彼も何か知っているに違いない。あとチビ助は余計だ大概に余計だクソが!
「魔弾のラース、蝕眼のメーヴォ。そしてヴィカーリオ海賊団の諸君!次に会うのは何処の海域か知らんが、お互い楽しもうじゃねぇか!」
またな!と言い残し、金獅子はそのコートと長い金髪を翻して、自分の船に戻っていった。副船長が一礼をしてそれに従った。程なく橋板が外され、二隻の船は袂を別った。
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