第十四幕『そして後日』

 ラースタチカ=フェルディナンド=ヴィーカリオ率いる、ヴィカーリオ海賊団による高級娼婦宿爆破火災事件から三日後。僕らは例の街から二日ほど航行した先の無人島沖に停泊していた。


 船医に担がれて丘を降り、焼却清掃部隊と合流し船に戻ると、夜明けと共に出航した。ラースの指示通りこの無人島海域で停泊して半日が過ぎようとしている。合流したクラーガ隊の面子は、着込んだ服の至る所に宿で目に付いた金目の物をごっそり頂戴して来ていた。


「これでまた帽子とコートとか、買おうぜ」


 山と積まれた装飾品から宝石を分解・解体するラースは不敵に笑ったが、だったら僕の持ち物を回収して来て欲しかった。実際のところ、偽金獅子が持っていたとか何とかで回収出来なかったんだと予想は出来るから、口には出さなかったが。

 コートは着やすいものだったし、追加でポケットやらを縫い合わせたりして使いやすくしていた。何より長年改良に改良を重ねて出来上がったヴィーボスカラートを無くした事は痛手だ。レシピは頭の中にあるが、再現をするのに時間がかかるだろう。


 本当にもったいない事をした。自分の不注意が招いた結果だとしても、そう思わずにはいられなかった。


「はぁ……」


 深い溜息が水平線に溶けて消える。溶けたそれが小さな点になって、やがて海賊旗を掲げた船であると視認出来る程に、あっと言う間にそれは近付いて来た。黒地に金の鬣の髑髏が浮かぶ、本物の金獅子の海賊旗を掲げた船であると見て取れた頃には、見張り台にいたラースが交渉の意志を示す信号旗を掲げていた。


 並んで停泊した船の間に橋板が渡され、金獅子海賊団の船長が、副船長を伴ってヴィカーリオ海賊団の船に乗船して来た。

 背格好は例の偽物に近かったが、やはり本物は気迫が違う。あんな小物と比べたら雲泥の差だ。背中と首筋の産毛がチリチリと逆立つような緊張感がある。その気になれば、彼一人でこの船など沈めてしまえるだろう。この男の元に単身乗り込んだと言うのだから、ラースの行動力と度胸に感心する。


「ラース船長、先日は世話になった」

「いやいや、金獅子の旦那。俺たちは必要な行動を取ったまで。それがお役に立てて光栄ってもんです」


 普段から板に付いていたラースの商人の演技も半ば本気なのだろう。目が全然笑ってない。


「お前さんたちが場をひっくり返してくれてコッチはかなり助かったんだ。その分の礼は、約束通り払わせてもらうぜ」


 大柄な金獅子は、どうしてかその気迫とは真逆に人懐っこく笑う。ともすれば大型犬のそれに近い何かを感じる不思議な男だ。

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