第十六幕『その宝』
「お前らのセイルに追い風を!」
「貴公のセイルに横風と、海の供物のご加護を!」
ラースが船長らしく相手に返事をすると、金獅子の船はするすると風を掴んで海域を抜けていった。
船が小さくなって行く様をヴィカーリオ海賊団の船員全員が見送った。ただただ、全員があの金獅子を至近距離で見て、平和的に分かれる事が出来たのを夢のように思っているんだろう。それは例の海神と対峙した後の感覚に近いから良く分かる。現実感のない、ふわっとした夢の続きのような感覚。それを呼び覚ましたのは、やはりラースの気の抜けた声だった。
「ぃいやぁー!金獅子おっかなかったなぁ!」
「その金獅子に交渉を仕掛けたのは何処のどいつだ」
「うぅーん、火事場力って凄いね!」
あまりにいつも通りの気の抜ける声に、船員全員が苦笑しつつ各自の持ち場に戻っていった。
「よーし、予定通り明朝まで此処に停泊!それまで各自羽を伸ばせぇ!」
船長の声に、船員の野太い返事が無人島にまで響き渡る。船員の何人かが釣竿を抱えて小型艇で船を降り、また何人かが手斧を持って無人島へ入って行った。
渡された本を持て余していた僕は、燦々と降り注ぐ太陽光の下でそれを開いた。
『おやおや、コレはコレは……』
ペラペラと適当に頁を捲ったところで鉄鳥が懐かしそうに呟いた。その内容に、僕も釘付けだった。
「ラース!コイツは……!」
「おう、金獅子んとこの秘蔵のコレクションを譲ってもらったぜ!お前は自分で調べたい派だろ?」
マストの上の見張り台に移動中のラースがニヤニヤしながらコチラを見下ろしていた。
「……流石だよ、船長殿!アンタにキスしてやりたいよ!」
「やめろよバカ!」
"リーブロエクリープソ(蝕の技術書)"と古い文字で書かれた分厚い古書を手に、僕は武器庫へと軽い足取りで向かった。
おわり
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