第二幕『期待値』
若干の棒読みでラースを突っぱねたエトワール副船長の一言に、お前もかよぉぉ!と仰け反ったラースが椅子ごと床に倒れて、この話はお開きになった。
興味本位で広がる話題ほど、冷めるのは早い。だからこそ名が広まり出した時は慎重になるべきなのだ。未熟な者が急いて先を行こうとすれば仕損じるだけだ。
『流石でございます、あるじ様。その崇高な志こそ、かつての技術者たちの目指した精神でございます』
突然念波で話しかけられるのにもずいぶん慣れた。物言わぬ従者は、どうしてか僕の意見を汲んだように肯定の言葉を口にする。
『今、ラースに沈んでもらっては僕の夢が遠のくからな。せいぜい宝に近づけるように、航路を取ってもらわないとな』
所詮は踏み台、と言う意識は確かにある。命を拾われた恩もあるが、ラースの知識と行動力、メンタルの強さや総合的な実力で、名だたる海賊たちを差し置いて、僕の夢の宝、燃える水に爆破する水を探し出す事など無理だろうと、冷静に判断している自分がいる。
その反面、しがらみのない彼だからこそ到達出来る高みがあるのではないかと期待する自分もいる。何処の海賊団ともふわりとした接触で留め、のらりくらりと雲のように自由な彼の行動、しかし決して自分の航路を曲げない彼の実直さは、この時代で生き抜くには十分な力であるとも想う。
彼に対して期待している自分に内心で苦笑し、あてがわれている武器庫兼自室に戻った。僕が誰かに期待する、か。
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