第三話『新米海賊と古参海賊』

第一幕『悪名と名声』

 ある港街で、殺人鬼が海賊によって連れ去られた。その十日ほど後にある海賊が海神と対峙し、更に海神すら手にする事の出来なかったお宝を手に入れた。と、ならず者たちの集まる町で話題になった。情報屋たちはこぞってその海賊について調べ回り、ヴィカーリオ海賊団の名前はクセ者の名と共に瞬く間に広がった。


「良いじゃねぇか有名人!俺は嬉しいぜ。この調子で名を上げていくべきだろ!」

「そうは言いますがお頭、下手な売名行為は海軍からの監視もキツくなって、行動に支障が出ます」


 ヴィカーリオ海賊団の船、エリザベート号の船長室で、情報屋レヴが長い前髪の奥で瞳を曇らせた。


「おめぇには夢がねぇんだよ!砲台も強化した今なら、海軍の船くらい返り討ちだぜ」


 この僕が整備して調整したのだから当たり前だ。と、喉の奥まで出掛かった言葉をぐっと押さえ、僕は船長ラースに苦言を呈した。


「だがラース。現に港に寄航し辛いのは確かだ。この船の特徴は大方知られている。お前は昔からの海賊でココに来て名を上げ始めたダークホース。今のうちに潰してやろうと考えている同業者も多いはずだぞ」


 それに僕の手配書もどうやら出回り始めたようだ。賞金額はそう大した事はないが、殺人の前科を持った海賊は、多方面から狙われる可能性を持っている。慎重に行動して損はない。


「んっだよ!メーヴォまでレヴの味方かよぉ」

「僕らには到達すべき宝までの航路がある。名を上げるだけの軽率な行動は慎め。宝に到達する経過で自然と名は通るものだ。今流れている情報など、お前の足を浮つかせるだけの美辞麗句に過ぎんぞ」


 バッサリと言い切ってやれば、ラースは怒られた犬のようにしゅんとして、応援を副船長エトワールに振る、が。


「ちょっとエトワールぅ、コイツ黙らしてよ!」

「至極真っ当な正論なので、ラースは少し自重したほうが良いと思いました」

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