第十三幕『船へ』

 漸くの事で息を吐き出すと、足の力がガクンと抜けてしまった。よろける様に両膝を付いて座り込む。背後で同じように砂利の鳴る音がして振り返れば、ラースも同じように尻を着いていた。


「……」

「……」


 ラースも僕も、割れた祭壇を挟んで顔を合わせ、ほぼ同時に大きな溜息を吐いた。


 恐ろしかった。アレが今世紀最も恐れる、最も海賊王に近いとされる海賊の気迫か。きっとラースも同じように圧倒されていただろう。


『あるじ様!おお、どうなされた!』


 ふわっと浮かんだ鉄鳥が、顔の前に飛んでくる。文字通り飛んでいる。


「……夢じゃあないんだな」


 あの海神と対峙した。魔法生物に主と慕われた。僕は海賊になった。どれも夢ではないようだ。

「供物に祈る間もねぇや……メーヴォ、メーヴォ!ちょっと、助けて。腰抜けちゃって立てねぇや……」


 へらっと笑って助けを呼んだラースに、僕は思わず笑った。


「は、ははは!だらしない船長だな!」

「うるせぇ、お前だって似たようなもんだろ!」

「ははは、海賊になってたった十日で武勇伝が出来たぞ」

「まったくだ、スゲェ船員を拾ったってもんだ」


 フワフワと飛ぶ鉄鳥を引き寄せ、左の耳に掛ける様に止まらせる。出来ればこうしてアクセサリーみたいにしていてくれ。飛び回って人目に付くのは良くない。船に帰ったら他の船員に紹介しなくてはいけない。


『かしこまりました、あるじ様』

「さて、大きな収穫もあったことだ。帰ろうか、僕の船に」

「俺の船だバカやろう!」


 おっとそうだった。

 つい先日、同じように引っ張られた左手を、今度は引いて、少しだけだらしない船長に肩を貸して、僕たちは船への道のりを帰った。


第二話 おわり

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