エピローグ―訪れた幸福―
先生を待つ時間が永遠のように思えた。ふわふわと墓場の真上で浮いていても退屈なだけ。
お墓参りに時折やってきた両親は窶れていて、それでも僅かな同情すら覚えない。死んでから態度を急変してなんだというのだろう、なら最初から優しさを与えてほしかった。母親は墓参りにやってきては涙を流しながらごめんなさいと謝罪を繰り返すばかり。
赦さない。
赦すつもりなんて一切ない。どうしてこの声は届かないのだろう。
墓参りに来たのは母親だけではない。紗紀ちゃんや美香ちゃんも何故か頭を下げにきた。あのとき助けられなかった、友達失格だと紗紀ちゃんと美香ちゃんが突然、泣いてしまうものだから、謝らないでいいよ、どうでもいいからと言ってもこちらの声は届かない。あんたたちの来訪なんて望んでない。ここに来てほしいのただ一人だけ。
しかし、その人はまだ来ない。
孤独が全身を襲う。独りは、こんなにも寂しい。待つことは、こんなにも辛い。嘘つき、と声を洩らす。先生の嘘つき、約束したのに。必ず自分を見付け出すって、そう約束したのに。
桜の花片が舞う墓地で一人涙をこぼしていると、誰かの気配がした。
俯いていた顔をあげれば、そこには──
「やっと見付けた」
聞きなれた、女性にしては低い声。
嘘のようだった。幻想かと思った。でも違う。そもそも私が見間違えるはずもない。
先生。
兵藤先生が、目の前に。
先生のもとに移動して、先生のことを思い切り抱き締めた。夢ではない。聞こえてますか、見えていますか、先生。そう言葉にしたら、先生はゆっくりと頷きを返して微笑む。
先生。先生のこと、待ってました。独りで寂しかった、辛かった。先生に逢えないのが、悲しかった。でも先生のことを信じてました。大好きです、先生。愛してます。
桜枚散る墓地で先生と抱き締めあって、互いに笑いあう。再び結ばれた二人、此処なら誰にも邪魔されない。
ずっと一緒。
「ずっと一緒にいようね、彩花」
先生の言葉に頷きを返した。
ふと、先生の足元に目を向ける。
先生の足元に、影はなかった。
消えないで、狂愛 麻倉 ミツル @asakura214
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