魔王の息子だけど、恋愛は個々の自由だと思う その4
所変わって此処は城の中。
時刻は丁度、私(ワタクシ)が怒り狂った三姉様に投げつけられたところでございます。
坊っちゃまの謎に絶妙なコントロールにより、私は三姉様の腹部あたりに衝突しました。
そう、確かに私は腹部にぶつかった筈なのですが、何故か大理石に衝突したかのような衝撃を頭に感じました。
腹筋えげつないってことですかね……。
などと現実逃避をしておりましたが、
「ガァア!? ア"ア"ァァア!!」
獲物を取り逃がし、絶叫する三姉様に現実へと引き戻されました。こ、これは身の危険を感じます。さけるチ〇ズのように縦に裂かれそうな予感がします。
「ちょ、ちょっと! 落ち着きましょう……ステイ! ほっ、本当にっ! 落ち着いて、Be cool ですっ、よ!」
完全に私へと繰り出される怒涛の攻撃ラッシュを死にものぐるいで避けながら、何とか正気を取り戻させようと声をかけます。
時々口から針のようなものを飛ばしてきたり、握力のえげつなさそうな指で足を掴もうとしてきたりします。
多分、いや、確実に捕まえられた時点で私の死は決定します。三姉様が掴み損ねた時に、その先にあった柱が砕けました。威力はご察しです。
坊っちゃまが柱を割ってましたがあれは坊っちゃまが規格外なだけで、柱の耐久度は竜がタックルしてもヒビ一つ入らないのがウリなほど高いんです。
本当に坊っちゃまとその家族様はおかしいんですって、ほんと……。
視界が何故か滲んでいますが、必死で逃げます。逃げます、ト〇とジ〇リーのジェリ〇より速く必死に逃げますとも。
「落ち着いてくださいっ!」
逃げながら声を出すのも忘れません。私の体力が尽きるか、追いつかれるか、どちらにせよ、このままでは私の死は確実です。
ですが、三姉様の様子が変わる様子はありません。完全に私を敵とみなす血走ったその目。ぼたぼたと口から落ちる液体が、床をどろりと溶かしました。きょ、強酸性……!
恐怖がマックスまでくると魔族はやけくそになります。少なくとも私は例外ではありませんでした。
「あのパンツにっ! そこまで、思い入れがっ、あったんですかっ!?」
多分一粒涙が出ていた気がします。
そのぐらい追い詰められていました。
その一言。
たったその一言で、三姉様はぴたりと足を、腕を止めました。
「うっ、ううぅうう……」
そしてぱたんと倒れ、蹲って泣き始めました。
「……え?」
私の顔はさぞかし間抜けでしょうとも。
「……あ、あれね。三兄ぃに始めて貰ったプレゼントだったの……」
ぴぇええ、と号泣する三姉様を宥めながら何とか聞き出したのはそんな言葉でした。……三兄様(トイレ)から貰ったものだったのですか。うん、要らないですね。
「そうだったんですか」
「うん、うん、それでね、大切にしてたものだったの……」
しょんぼり顔文字が似合いそうな顔で落ち込んでいました。先程までゾンビも素足で逃げそうだった顔つきをしていたのに、今ではすっかりふにゃふにゃした顔をしています。
そう、まるで日常アニメから突然ゾンビ物に変わった例のアニメとはまるで逆!
突然の萌えアニメ!
あまりのギャップに動揺が隠せません。頭が痛いとも言います。
***
僕は泉から上がって暫く寝込んでいた。もう無理。死んじゃう……。
身体を確認してみた所、至る所に火傷の痕があった。痛い。傷口は殆ど塞がっていたから死ぬことはないと思うけど……。
……にしても、何で僕がパンツを持ってるんだろう。
それになんで四兄様が気絶してるんだろうか。うーん、覚えてないなあ。まあいいか。
僕は泉に大量に浮かんだ焦げ魚を見ると唇を舐めた。こ、これはお腹いっぱい食べれる。
取れるだけ浮いた魚を取り尽くすと、その数ゆうに二百を超えた。丁度お腹がすいてたところだったのだ。ラッキーラッキー。
……恐らくこの泉の主らしき巨大魚を齧り始めたころに四兄様は目を覚ました。
「……こ、ここは」
「四兄様! 寝坊ですよー」
四兄様は僕を見ると一歩後ずさったが、年上の意地というべきか逃げ出すことは無かった。
「そうか、ふむ。負けたか……悔しいものだな」
そして僕の足元に乾かしてあるパンツを見ると、ふっと自嘲気味に笑った。
四兄様は草原にごろりと横になると、ぽつりと話し始めた。
「……なあ、弟よ。」
「なんですか?」
「弟が姉に恋するのはタブーか」
「……個人の自由じゃないですかね」
魔王の息子だけど、平穏に暮らしたい 流土 @kasumire
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