津辺市第三セクター戦闘記

浅呉壱式

第1話 ナイト=ゲーム 

 全ての人類が魔力を手に入れた時代のこと。暗い夜。月は出ていない。少年は急ぎ足で現場に向かう。というのもこの様な呼び出しがあったからだ。

『緊急事態発生。津辺市第三区内に巨大な悪霊ネイバーを探知、至急五条と中山は応戦せよ。』

「なんで夜中に呼び出されるんだよ......確かにその時暇な奴が行くシステムといってもこんな時に呼ぶんじゃねーよクソ本部セクター......」

この少年、五条皐月ごじょうさつきは現在高校1年生の「ドルイド」である。

ドルイドとは、平たく言えば魔法使いの上級者のこと。悪霊や悪のドルイドが蔓延るこの世界では誰もが試験さえ突破すればドルイドとなることができる。

「遅い皐月!!どうせネトゲしてたんでしょ!?」

自分の腕時計型端末「セロニアン」から少女の声が聞こえる。

「うるせぇ!!イベント周回中だったんだよ!!!!ゲージ溢れるとこだったんだぞ!?」

「ホントにあんたってゴミクズなのね!!」

この少女は中山美香、高校1年生。違う学校ではあるが、この仕事を昔から同じ部署でやってる仲間だ。

「防御フィールドは展開しておいたわ。さっさと空中戦ユニットの展開しなさいよ!」

防御フィールドは悪霊との戦いの被害を食い止めるための科学技術と魔法学の融合により生まれた機械だ。空中戦ユニットは文字通り、なんと靴に付けるだけで空を飛べる物である。

「ハイハイわかりましたよっと。どうせ俺はゴミクズだよな、前鬼に後鬼?」

と軽く流しながら前鬼と後鬼に話しかける。こいつらは俺の式神だ。

「ま、確かにそうだよなぁ」

「ねぇちょっと前鬼?少しくらいフォローしてくれよ?俺泣いちゃうよ?」

「美香さんの発言は正しいですね」

「後鬼までそんな事言うの?俺拗ねるよ?お前らホントに俺の式神か?」

「何無駄話をしてるのよあんた達!!悪霊が暴れないうちに早く来なさいよ!?」

美香の精霊、グレムリンもやれやれとばかりに脅してきた。

「部長にチクるぜ」

「「「ウィッス」」」

無駄にハードボイルドな声だから無駄に腹が立たない。これもグレムリンの能力なのだろうか。さっきよりも急いで向かうと悪霊も見えてきた。

「うっわこんなに大きいのか。......超帰りてぇ.........」

見えてきたのは体長6mほどの悪霊であった。紫色で毒々しい。子供向けアニメによく出てきそうな色合いだ。

「部長にチクr「「「ウィッス」」」

一言でグレムリンへの対応を済ませ、戦闘モードに入る。

「空中戦ユニット展開!」

皐月の体が宙に浮いた。そのまま空中で戦闘体勢を整える。皐月の戦闘スタイルは二刀流木刀での我流剣術だ。

正装マイティ!!前鬼!!後鬼!!」

皐月は木刀「日照ひでり」「朧月おぼろづき」の霊装を行った。


 ここで説明しよう。

 霊装とは何か。

 霊装というのは物体Aに対して魔術的アプローチを掛けることにより物体Aを強化することである。

 皐月の場合は木刀(物体A)に対し、式神術(魔術的アプローチ)を掛けることにより木刀を大幅に強化したのだ。


また、霊装には色々な種類があり、正装は割と簡単で魔力の消費も少ない一番一般的な霊装である。


「さぁ仕事さっさと終わらせて、うちに帰るぞ!!」

「ハイハイたまには働きますかねっと」

「仕事を早く終わらせるつもりで?もしかして手抜きですか?」

「お前らホントに俺の式神か?」

「部長にチクr「「「ウィッス」」」

グレムリンには逆らえない。

「んで、あいつは何だよ美香?」

「アイツは"鉄鼠てっそ"っていう坊さんの成れの果ての妖怪がベースの悪霊のようだ。鉄鼠はとても素早く、毒を持っているのが特徴でな、さらに......」

グレムリンが美香に代わって答える。

「ふーん......尻尾切ればいいのか」

長くなりそうな話を途中で終わらせ、切り込みにかかる。

「あっちょっと!!人の話最後まで聞きなさいよ!!」

「まぁ俺は人じゃねぇんだがな」

とにかく切るしかない。尻尾に向かうと楽に近づけた。このまま切れば....

「皐月!!何をしているのですか!!」

後鬼が珍しく大声をあげる。

「上から来るぞ!!気をつけろ!!」

前鬼の一言ではっと上を見た瞬間、上から鞭のように尻尾が降ってきた。



「ッ!?いきなり上からの尻尾攻撃なんて反則だろ!?てかこいつ尻尾が2本もあるじゃねぇかよ!!そんなの聞いてないぞ!!」

「だから話を最後まで聞きなさいって言ったでしょ?」

気をとり直して正面に構える。

鉄鼠はこちらの出方を伺うように睨んでいる。

「一体どう攻めればいいんだか......正面突破はもっとまずいな......」

「そもそも接触技はダメ、皮膚から毒を垂れ流してる相手なのよ?まさかモロに浴びるつもり?」

「じゃあどうしろと......」

「決まってるじゃない。いつものよ」

「危ないだろアレ。下手したら俺死ぬし。上から許可降りたのか?」

「でも毎度毎度やってるもんな」

「いつも事後報告で問題ないですし」

「ホントにお前ら容赦ねぇな......」

仕方ない。こうなってはやるしかない。

「あぁもう鉄鼠、こちらへ来てみろよ。来れるもんならな!!退魔封印-足枷ノ呪縛あしかせのじゅばく!!」

「足と尾は引き受けたぜ、皐月!!」

前鬼の正装を解除し、そう唱えると鉄鼠の足下に魔法陣が現れ、足枷となった。

鉄鼠は避けようとしたが美香に阻まれ、マトモに喰らってしまった。

「そのまま待ってろよ鉄鼠さん、楽にしてやるからな!!行くぜ後鬼、雷撃!!!!」

木刀を振り回し衝撃波を発生させる皐月の大技だ。本当に木刀とは思えないほどの斬撃である。これが霊装の力だ。

「ギシャァァァア!!!!!!」

「よし怯んだな、今だぜ美香!!」

「わかってるって、やるわよグレムリン!!改装NEXOM!!ウォーヴァバズーカ!!」

「おう、俺はいつでも準備万端だぜ?」

そういうと彼女の持っていたハンドガンの正装が解除され、バズーカへと変わる。

「消え去れい!!超魔砲デスシュート!!!!」

「逃げるぞ前鬼!!後鬼!!......ってあれ?」

「ぼさっとしてないで早くしろよ」

「皐月、早く逃げないのですか?」

前鬼はもう逃げていた。後鬼も前鬼の側にいた。

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

間一髪で範囲外へと抜け出す。

その瞬間、背後が燃えた。

超魔砲は範囲内をまとめて消し去る技、こんなのを喰らったらひとたまりもないというのは誰でもわかる。

この鉄鼠でさえ一瞬で灰になるのだから。


夜で野次馬が居なくてよかった。

防御フィールドに防音機能があってよかった。

そう思った皐月である。



こうして夜は平和なうちに過ぎていく。

しかし明後日の新聞記事にはドルイドのせいで街が破壊されたことを批判するコメントが載るのだろう。マスコミはいつだって何かを敵に回すものだ。


こうして、津辺市第三区にはまた新たな日が昇るのだった。



しかしこの悪霊はこれで終わったのだろうか。何のためにここにいるのか。

理由などは存在しない。


それを知るのはしばらく後になるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

津辺市第三セクター戦闘記 浅呉壱式 @asakure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ